トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ グローバリゼーションとは、アメリカニゼーション
外交評論家 加瀬英明 論集
2014年2月に、横浜に講演に招かれた。
会場が横浜のみなとみらいにある、「横浜ワールドポーターズ」だった。
ネット上の「ワールドポーターズ」の資料には、「横浜みなとみらい21新港地区に位置する横浜ワールドポーターズ。ショッピング・デートなどで、一日中たっぷりと遊べるショッピングモールです。『いろんな世界がここにある』というコンセプトのもとに、延床面積10万㎡を誇る大型商業施設として、1999年にオープンしました。
広々とつくられた建物の中には、ファッション、インテリア、雑貨など個性的な約210のショップ、レストランをはじめ、シネマやアミューズメントも併設され、一日中お楽しみいただけます」と、あった。
英語の「ポーター」は、「玄関番」「荷物を運ぶ者」や、「雑役夫」のことだ。なぜ、「ポーターズ」なのか分からないので、ビルに問い合わせてみた。「港があるので、”物を運ぶ”から造った言葉で、言葉の響きから、そう名付けました」という答えが、戻ってきた。
地下鉄の駅の改札口で、主催者が迎えてくれた。
再開発された新港地区を訪れたのは、はじめてだった。無機質なビルが並んで、まるで外国に来たようだった。私が学生だったころは、何一つない原っぱだった。
会場まで行くエレベーターのなかの電光板に、さまざまな店の名があった。カタカナばかりで、漢字や、平仮名がほとんどなかった。
私は主催者に、「みなカタカナばかりですね。そのうちに、日本語が消滅するんでしょうね」と、呟いた。すると、偶然、乗り合わせた高齢の紳士が、感じ入ったように、「戦争に負けるものじゃないですね」と、相槌を打った。私は「この次は、勝ちましょう」と、言った。
講演の後に、同じ階にある、懇親会場へ向かった。
日本らしさがまったくない、寒々しい空間が、拡がっていた。カタカナと、アルファベットの店名の氾濫だった。
グアムか、サイパン島で、日本人観光客を相手にして、たまに日本語の看板があるように、二つか、三つ、日本語の店の名が混じっていた。
もっとも、私の家の近所も同じことだ。私は都心に住んでいるが、皇居まで歩いて7、8分ほどのところだ。
いつの間にか、八百屋や、魚屋、豆腐屋、オモチャ屋、駄菓子屋が一つもなくなって、コンビニと、スーパーに変わった。
棚の食品や、商品を自分で黙々と取って、プラスチックの籠に移す。見知らぬレジの店員と会話がないから、心が通うはずもない。人のぬくもりがない。無縁社会だ。
私は1936(昭和11)年に生まれて、四谷で育った。私の少年時代には、近所を思いやって、扶け合ったものだった。行き交うたびに、挨拶を欠かさなかった。誰か、入院すれば、寸志を包みあった。一つの大きな家族のようだった。
今では、隣人といっても、目鼻口がない、のっぺらぼうのようだ。ロボットのようなコンビニの店員と、変わらない。あらゆるものが、無機質になった。
これも、アメリカが進めているグローバリゼーションによって、支配されているからだ。
アメリカは全世界を、アメリカ化しなければ、満足しない。
グローバリゼーションは、アメリカニゼーションの別名だ。アメリカ経済が商業主義を通じて、世界を支配しなければならない。
私はファスト・フード、ファスト・コンピューター、ファスト・エンターテイメント、ファスト・ミュージックによる、アメリカニゼーションを、ビッグマック(マクドナルドのハンバーガー)文化と呼んでいる。食べるものも、考えるものも、労力を惜しむ。慌てて、刹那的な快楽を追う。何ごとも、使い捨てる。
エレベーターや、レストランでは、終始、細切れにされたBGMが流れている。アメリカ文化は人々に、落ち着いて考えさせないために、忙しく追い立てて、すべてを細分化する。
いまの高校生は、スマホ(スマートフォン)によって、瞬時にして、かつてのルーズベルトや、チャーチル、スターリン、ヒトラーの数千倍もの情報量を、手にすることができる。それなのに、あのころの高校生と較べて、知的に大きく退化している。
パソコンや、スマホの情報は、BGMと同じように、細切れになっている。情報は、気を散らすために、存在する。
スマホは世界をアメリカ化する、ハイテクの道具だ。「スマホ」と日本語で短縮して呼んでいるが、アメリカニゼーション語の日本方言である。
共産主義は、国境を越える思想だったから、かつてはよく『インターナショナル』が、歌われた。それにかわって、ハードロックや、ポップスが、アメリカニゼーションの讃歌となっている。
アメリカにとって、ハリウッド映画や、騒々しいミュージックや、エンターテイメントが、航空宇宙産業や、IT製品と並ぶ、主要な輸出産業となっている。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第8章日本はいつまで、アメリカに国防を委ねるのか
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