トップページ ≫ 社会 ≫ 教育 ≫ 小池都政よりも手厚い!埼玉県の「私立高校生への学費負担軽減策」の中身と影響④
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忘れてはいけない「大学入試新テスト」の存在
実は,2017年春に高校受験を迎える世代は「従来の大学入試センター試験」を受ける最終学年であり,翌年(2018年春)高校受験に向かう学年(現中2)は,いよいよ始まる「大学入試新テスト」の一期生です。これに「私立高校生への学費支援策」を重ねると,中学生の受験校選びは一気に複雑なパズルになってしまうのです。
前述の公立トップ校に通い,難関国公立大学や早慶上智を目指すという生徒であれば,新テストなんて気にしないレベルで準備することが前提ですから「新テスト」のことを気にする必要はありませんが,そこまでのレベルに至らない生徒の場合だと,埼玉県の利便性を活かして都内私立大学を選択するケースが大変多くなってきます。その際のボーダーラインが一般的には「MARCH」とされていることを覚えておいてください。
御存知の通り「大学入試新テスト」はまだまだ詳細が決まっていない部分がたくさんあります。先行き不透明な現状で判断せざるを得ないとすれば「MARCHの附属高校に行かせる方が,公立高校に進学するよりもリスクを減らせる」と考える御家庭が多くなるかもしれません。金額を調べてみましたので比較してください。
首都圏有名大学附属高校学費(一部)
授業料 | 入学金 | 施設費 | その他 | 初年度納入金 | |
中央大学附属 | 498,000円 | 290,000円 | 0円 | 280,000円 | 1,068,000円 |
中央大学杉並 | 498,000円 | 290,000円 | 0円 | 290,000円 | 1,078,000円 |
明治大学明治 | 500,400円 | 300,000円 | 0円 | 240,000円 | 1,040,400円 |
青山学院高等部 | 600,000円 | 320,000円 | 0円 | 213,000円 | 1,133,000円 |
法政大学高校 | 486,000円 | 250,000円 | 0円 | 213,000円 | 949,000円 |
立教新座高校 | 624,000円 | 300,000円 | 310,000円 | 0円 | 1,234,000円 |
早稲田実業高校 | 468,000円 | 300,000円 | 120,000円 | 208,800円 | 1,096,800円 |
早大本庄学院 | 684,000円 | 260,000円 | 228,000円 | 10,300円 | 1,182,300円 |
※この金額は調査時のものです。最新情報は各高校のHPでご確認ください。
これを見て「高い!」と思われるかもしれませんが,その中身をよく見てください。前述の県内私立高校学費の平均と有名大学附属高校学費との間には,初年度納入金には最大40万円程度の差がありますが,「施設費+その他」にはそれほど大きな差はなく,2年次以降は授業料の差額だけを考えておけばよいことになります。学費支援を受けられる御家庭が,補助金額を超えた差額を支払ったとしてもこうした私立大学の附属校に進学することにメリットがあるのかどうか,皆さんが新中3のお子様の保護者になったことを想像して考えてみてください。
①早稲田や慶應の附属はレベルも金額も高いから,MARCHの附属を進学先に考えてみる。
②県の施策を利用できれば,多くても年間50万円前後の出費で大学推薦権が手に入る(100%ではない学校もある)。
③公立高校に進学した場合を考えると,確かに学費は安いが予備校通いがセットで,大学受験時の受験料まであわせると,その費用総額で学費の安さはおそらく相殺される。そして,不透明な新テスト一期生としてのリスクもある(準備に失敗すれば浪人の費用もかかる)。
④そして何より高3の夏にオリンピックがやってくる。大学受験するなら夏は世の中の熱狂に背を向けて勉強オンリー。附属高校なら何らかの形でボランティアをする時間もあるだろう。どうせなら一生に一度の大イベントとどう向き合うかも考えておきたい。
ここまで見通してみれば,従来ならば経済的事情からこうした高校を選択肢にすら入れなかったであろう生徒たちも,成績面に問題がなければ「チャンスかも!」と思えることでしょうし,これから「よし,勉強しよう」と決意を新たにするかもしれません。この施策をきっかけに「考えてみる機会」を持つことそのものに価値があると,私は強く思います。
この流れが強くなると,大学実績で「MARCH 〇名合格!」を謳うレベルの高校が公立私立を問わず,公立トップ校と私立大学附属校の両方に生徒を持って行かれてしまうことでしょう。この傾向は今春でさえ見え隠れしていて,立教新座高校では今春の高校入試で志願者が20%(199人増)もの大幅な増加となりました。新テストの影響で「浪人できない」プレッシャーを背負う現中3がそれを嫌うだけでこの増加ですから,埼玉県の学費負担軽減策が小池都政への注目とあわせて大きく報じられるとこの傾向が加速する可能性は高くなるでしょう。これによって一部の公立高校は大きなダメージを受けることになるかもしれません。
教育クリエイター 秋田洋和
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