社会
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数か月前に衛星放送WOWOWで見たスポーツドキュメンタリー『マイク・タイソンチャンピオンたちの生き様ボクシングの伝説と真実』(バート・マーカス監督 2014年米国)は陳腐な日本語タイトルに似合わぬ内容だった。マイク・タイソン、イベンダー・ホリフィールド、バーナード・ホプキンスという世界をわかせた重量級世界チャンピオンが「生い立ちから現在までを自ら赤裸々に語る衝撃作」と謳っているように、貧困の中でボクシングに光明を見出した若者が努力の末に栄光の座を得るが、金の亡者に取り付かれて破綻、そこから新たな道を切り開こうとする姿を描いたものだ。
貧富の格差が大きい米国では、多くの黒人ボクサーは貧民街の出身で、犯罪が頻発する環境の中で育ち、自ら犯罪に手を染めることも少なくない。3人ともそこでボクシングと出会い、厳しいトレーニングに耐えて、世界の頂点に昇りつめる。しかし、彼らに接近して取り入り、マネージャーやプロモーターになるや、ボクサーが何もわからないまま不当な契約書にサインをさせてしまう者がいる。ファイトマネーの多くが、命懸けで闘うボクサーではなく、リングの外で電卓をたたく彼らのふところに入る仕組みになってしまう。それでもにわか成り金になったボクサー自身も無茶な散財をして、いつの間にか無一文に。タイソンをはじめ、世界チャンピオンになっても引退とともに生活破綻という例が多い。
ボクサーを食い物にした代表的人物は逆立てた頭髪で日本でもよく知られたドン・キングだ。番組中にもその姿は暗示的に登場する。彼は1974年にアフリカのザイールで行われたフォアマン対アリ戦で成功をおさめ、ボクシング界に勢力を広げる。多くの有力ボクサーを支配下に置き、マッチメークも思いどおりにでき、ボクサーたちも彼の傘下に入ったほうが有利と思うようになる。
手のつけられない不良少年だったマイク・タイソンはその才能をボクシングジム経営者カス・ダマトに見出された。ダマトはヘビー級世界王者フロイド・パターソンやライトヘビー級王者ホセ・トレスなどを育て上げた名伯楽だった。彼は「ボクシングでは人間性と創意が問われる。勝者となるのは常に、より多くの意志力と決断力、野望、知力を持ったボクサーなのだ」と語っていた。金銭にこだわらず、ホセ・トレスは「私がボクサー時代に稼いだお金からは1ペニーだって受け取らなかった」と回想している。
ダマトの予想どおり、タイソンは1986年11月に史上最年少でヘビー級世界タイトルを獲得するが、その1年前にダマトは亡くなっていた。そしてドン・キングの接近が始まり、チーム・タイソンのメンバーは一掃されてしまう。タイソンは2度日本で試合をしたが、私は両方の公開スパーリングを見ていた。1度目はダマト時代のスタッフで固めていて、トレーナーが細かい動き1つ1つをチェックしていた。2度目はドン・キング配下のスタッフで、タイソン自らも緊張感が低下していて、試合は番狂わせのタイソンKO負けで終わった。その後、彼にはトラブルが続出し、1996年に世界王座に復帰するものの、すぐホリフィールドに敗れる。再戦ではホリフィールドの耳を嚙んだことで失格負け。
因縁の2人だが、番組ではホプキンスを加えて3人で、罪を犯した少年たちの更生のためにボクシングを教える活動を開始したと伝える。加えてボクシング界に巣食うハイエナたちからボクサーを守れと訴える。対戦試合での遺恨よりも少年時代の暗い記憶、そしてファイトマネーを不当にむしり取られた怒りのほうが大きいからだろう。この番組は7月2日(日)の深夜に再放送予定だ。
今回、タイソンやキング関連の日本語訳された本を何冊か読んでいたら、思わぬ人の名が出てきた。米国大統領になったドナルド・トランプだ。ホテルやカジノの経営者として1980年代から数多くのボクシングのビッグファイトに関わってきた。当然、ドン・キングとからむことが多い。2014年刊のタイソンの自伝『真相』にはタイソン、キングがらみの裁判で出廷している写真が掲載されている。やはり2人は1つ穴のムジナだった。
山田 洋
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