自転車に乗っていた女性が信号待ちの時間に、カバンから本を出して読みだした。すぐに信号が変わったので、ちょっとした時間でしかなかったが。信号待ちの時にまで読みたいとは、どんなに面白い本だったのか。推理小説だったりして。いままさに真犯人がわかるところで、家を出る時間になってしまって、気になりながらペダルをこいでいて、このタイミングでどうしても読みたかったのかもしれない。

最近は、電車のなかではスマホとにらめっこのひとが多い。そのなかでも、本を読んでいるひとにはつい目がいってしまう。何の本を読んでいるのかが気になるが、だいたいの人がカバーをしているのでわからないのが残念。仕方がない。本のタイトルはそのひとの興味をあからさまに発表してしまうものなので、隠したくなる気持ちもわかる。

一方、わたしはカバーをしない。わたしの興味を見てくれたまえとばかりに堂々と車内で本を読む。先日、いつもどおり車内で堂々と読んでいたが、側にいるカバー本を熱心に読んでいるひとのことが気になりだした。熱心に読んでいるが、何の本だろう？わたしはあなたにわたしの興味を見せているのだから、そちらも見せてよ！などと、勝手なことを思ったりして。電車内での考えごとが止まらない。

目的の駅で降りる時に、熱心に読んでいるひとが顔を上げてこちらを見た。少し見られている時間が長かったような。

電車を降りて歩いているときに、自分のシャツのボタンがひとつかけそびれていた。恥ずかしい。

先程じっと見られたのは、自分に教えるべきかどうか悩んでいたのかもしれない。

「本日の教訓」

その一、身なりには気を抜かないこと

その二、本は読めても他人の頭のなかは、はっきりとは読めない

檀ままこ