トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ キリスト教徒にとって「創世記」は神話ではない
外交評論家 加瀬英明 論集
神話は、創作されたものである。しかし、先人たちがまさか嘘を後世に、伝えようとしたはずがない。東日本大震災による福島原発事故について、「安心神話が崩壊した」といったように、神話が虚偽と同じ意味で、しばしば使われているのは嘆かわしい。
キリスト教にとっての『旧約聖書』の「創世期」も、神話である。
しかし、多くの敬虔なユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒にとっては、事実である。イスラム教徒も、「エデンの園」の物語を、史実だと信じなければならない。『コーラン』には、「エデンの園」は「アドンの園」として、登場する。
ユダヤ教にとって、神が宇宙をつくった時に、人間の歴史が始まった。
ユダヤ人の国であるイスラエルは、西暦ではなく、ユダヤ暦を公式な国の暦として用いている。2011年はユダヤ暦の5771年である。この宇宙が誕生してから、まだ5771年しか、たっていないのだ。
宗教学者は、唯一絶対神を戴く一神教を、「高等宗教」と呼び、精霊宗教や、多神教を「未開宗教」と位置づけている。西洋で、宗教学が生れたからだ。しかし、神秘的なものを信じることでは、変わりがあるまい。
日本神話を記した『古事記』と『日本書紀』が、大和朝廷の正統性を強め、権威を確立するために編纂されたと説く学者が、多い。だが、それはあまりにチャチな見方というしかない。
日本神話には、神武天皇の子のタギシミミノ命が、父天皇の死後、父の後妻と結婚した後に、自分の異母弟に当たる子達を殺そうとした、おぞましい話が出てくる。ところが、殺されかかった二人の子である、カムヤイミミノ命と、カムヌナカワミミノ命が、タギシミミノ命を殺してしまった。
もし、神話が大和朝廷を美化しようとして、編まれたものであったら、このような思わしくない話は、削除したことだろう。
当時の庶民も、支配王朝が成立した歴史を知り、誇りたいと、望んでいたにちがいない。朝廷が正統性を押しつけようとして、記紀(『古事記』と『日本書紀』)を、まとめたわけではあるまい。
ダーウィン(1809年~82年)が進化論を世に問うた『種の起源』(1859年)が発表されると、キリスト教の有神論に強い打撃をあたえた。ダーウィンの学説は、キリスト教の信仰を支える柱である、神が六日間かかって世界を創造し、六日目の最初の人であるアダムを造ったという、聖書の「創世記」を否定するものだった。
ダーウィンは学究の人であったが、豊かな諧謔精神をもっていた。ある時、知人から猫の品評会の会長になってほしいという依頼を受けたが、「きっと私の名前が出ると、飼い主たちが猫が無神論者になることを恐れて、出展しないことになるでしょう」と、断りの手紙を書いている。
ダーウィンは,二本マストの帆船『ビーグル』号に、五年に渡って乗り組んで、太平洋、大西洋、南アメリカ沿岸、ガラパゴス諸島を巡り、生物が進化するという理論をまとめた。
ところが、そのあいだ中、ダーウィンとともに航海した『ビーグル』号の船長は、ダーウィンの学説を聞くたびに、神を冒涜するものだと考えて、受け入れる事を拒んだ。
今日でも、キリスト教徒のなかで、神が全宇宙を創造したと、頑なに信じている者が多い。
私は『旧約聖書』の「創世記」が、世界の多くの神話の中の一つの物語であると思う。しかし、キリスト教徒にとっては、神話ではない。事実なのだ。
西洋人はキリスト教をはじめとする一神教を「高等宗教」であるとみなして、多神教や精霊信仰を「未開宗教」として、蔑んでいる。同様に、アフリカやポリネシアや、メラネシアの部族の神話も「原始神話」として、見下している。
ジョン・レノンはなぜ神道に惹かれたか 四章 日本神話の独特な世界
バックナンバー
新着ニュース
- エルメスの跡地はグッチ(2024年11月20日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 秋刀魚苦いかしょっぱいか(2024年11月08日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR