トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 世界の宗教・文化は、すべてハイブリッド
外交評論家 加瀬英明 論集
世界に,他の文化や宗教によって影響を受けない、純粋で独自な宗教は、一つとして存在しない。
世界のあらゆる宗教と文化は、ハイブリッド ― 混合している。
ユダヤ教は、一神教の始祖とされているが、ユダヤ人が紀元前14世紀に、エジプトで捕囚の日々を送っていた時に、一神教の着想を得たともいわれる。
エジプトは多神教であったが、第18王朝のファラオであったアメンホテプ四世が、紀元前14世紀にあらゆる神々を排斥して、太陽神アテンが「唯一神」であると、宣言したことがあった。
だが、この場合は、ファラオの一時的な気紛れでしかなく、間もなく元に戻った。
ユダヤ教の絶対唯一神は、はじめ氏神から出発して、やがて部族全体の神となった。
この神がさらに全人類の神となると、それまでは他の部族の神々も認めていたのに、すべて排斥して消滅させた。そのうえで、ユダヤ教が母胎となって、キリスト教とイスラム教を生んだ。
ユダヤ教は一神教として、キリスト教徒と、イスラム教徒が世界人口を占める数からいって、人類にもっとも大きな影響をおよぼした。
ユダヤ教は、神が土から最初の人であるアダムを造ったとしているが、独自の発想ではない。
ギリシャ神話では、多くの神々の一人であるプロメテウスが、泥から人をこしらえた。
他の民族や、部族の神話にも、人が土から造られたという、物語が多い。
ゾロアスター教は紀元前6世紀にペルシャで生まれ、善の唯一神であるアフラ・マズダと、悪の唯一神であるアーリマンとの闘争を、軸としている。
預言者ゾロアスター教が開祖であり、火を拝むことから、拝火教、あるいはマズダ教とも呼ばれる。古代インドの聖典である、『ヴェーダ』の強い影響を受けている。
ゾロアスター教は、善なる唯一神を設定したことで、ユダヤ教と共通している。キリスト教徒とイスラム教でも、神とともに悪魔(イスラム教ではシャイターン)が存在するが、全能であるはずの神も、なぜか、悪魔を滅ぼすことができないことから、ゾロアスター教の善悪二神論と、よく似ている。
もし、ユダヤ・キリスト・イスラム教の全能なる神が、善悪ともに兼ねていたとしたら、絶対的な善の神になれなかったから、人々から信頼されなかっただろう。悪魔がいなければ、不便だった。
現在、ゾロアスター教徒は、インドに10万人ほど、イランに一万人ほどおり、世界全体で合計して15万人ほどいると制定されている。
釈尊はヒンズー教のもととなったバラモン教の家に、生まれた。仏教は、バラモン教やヒンズー教から数多くの神々を、引き継いでいる。
ヒンズー教の最高三神の一人であるシバが大自在天となり、愛の神であるカーマが愛染明王、インド神話のクベーラが、四天王の一人である毘沙門天(多聞天)となっている。
仏たちの出自といえば、インド神話の神々である。
仏教徒は仏を拝礼することを通じて、ヒンズー教、バラモン教の神々に祈っているのだ。
私は法会に招かれて、声明を聴いているうちに、恍惚となる。声明は仏僧が経典を節をつけて、合唱する声楽の一種であるが、もとは古代インドのバラモン教のヴェーダ讃を曲節つけて、唱える音楽である。
声聞は「梵歌」とも呼ばれるが、「梵」はバラモン語、あるいはバラモン教の神を意味している。中国を通って、日本に伝わった。
声明には音符に当たる音符図式や、声明譜もある。さらには、謡曲、浪花節、相馬盆唄や、草津音頭などの各地方の音頭のもとともなっている。
日本の神道も、中国の仏教や、道教から強い影響を受けている。
日本神話は、南の太平洋の神話と、北の大陸の神話が、混じっている。
山幸彦として知られるヒコホホデミノ(彦火火出見)命が、海幸彦である兄のホデリノ(火照)命と猟具をとりかえて、魚を釣りに出たが、借りた釣り糸を失い、探し求めるために海宮に赴いたという話は、セレベス島や、南洋のバラウ島、ニューブリテン島の神話と、共通している。
高天原から天孫が降臨する物語は、朝鮮半島の新羅や伽耶の神話で、建国の始祖が天上から降臨する話に通じる。
オオクニヌシノ(大国主)命と、因幡の白兎の話に、ワニが登場する。インドネシアの神話には、動物がワニをだまして、海や、河を渡る話がある。
このように、日本神話は、日本列島にやってきたさまざまな人々が、持ち寄ったものだったのだろう。
だからといって、日本神話価値が減ずるものではない。世界のどこへ行っても、神話は貸し借りのうえに成立している。人類はみな、どこかで、つながっているのだ。
しかし、日本神話は、優しいとい点で、日本らしさがある。古代の日本人の感性に合わせて、独自の日本神話が編み出されたのだった。
神道は、山や森を拝んだから、もともと神殿がなかった。
殿舎である常設の神社を造るようになったのは、仏教が日本に渡来してからのことである。仏教の寺院を模倣するようになったものだ。
日本に新しい神として、大きな力をもった仏が入ってくると、神道も神社を建てることによって、同じような外見を備えることになった。
ジョン・レノンはなぜ神道に惹かれたか 第6章 世界宗教と神道はどこが違うか
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