文芸広場
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海鳴が聞こえている
もしかすると遠い何万年からの昔から聞こえていたのかもしれない
しかし近頃、海鳴の音が悲鳴のような響きに変ってきたと海底の狼魚は感じていた
地球が傷ついている
地球が傾いてきたと狼魚は思っている
しかし俺はこんな500メートルぐらいの暗い海の底で何も知らないし、何も見えない
せいぜい1メートルぐらいの小動物のうごめきしかわからない
そして他の魚達のように仲間も何もいない
父も母もそのまた祖父も祖母も先祖達のこともまるでわからない
何故俺はこんな寂しい海底で友もなくたった独りで海鳴だけをきいているのだろうか
一度でいい 海をでて青い空を観、白い雲をながめ、地球の空気を吸ってみたい
ある時、そんな狼魚の目の前に茶色の網のようなものが垂れてきた
狼魚はクモの糸カンダタのようにしがみついた
狼魚は喜びで一杯になった
今日から俺は独りではない!
その日から狼魚は珍魚ともてはやされた
せまい水槽の中で多くの魚達と交わった
俺はやっと孤独から解き放された
しかし、そんな喜びも束の間だった
数日後、狼魚は青い皿の上にうすい紙切れのような刺身となって寝かされていた
狼魚はもがいた 暗くてもいい、ふるさとのあの海の底に戻りたいと念じていた
狼魚はそのまま海とは逆の遠い無窮の空の彼方に消えた
もう影も形も孤独もなくなった
思い出したように海鳴の音だけがかすかにきこえていた
つくば林太郎
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