文芸広場
俳句・詩・小説・エッセイ等あなたの想いや作品をお寄せください。
鈴虫の籠を片付けようとした時です
「まだ生きているよ」
一匹がヒゲを動かしました
「誰もいない世界で何をしてるの?」
生き残りの鈴虫が虫の息で答えました
・・・みんな一緒に旅立ちたかったのだけど
大きな送迎バスは戦争や天災で当分大忙しです
「これしかなくてスイマセン」
自転車で来た人が順番々と一人だけ荷台に乗せていきました
「一人になって三日も経ちます。私を忘れてしまったのでしょうか
このまま一人だけで寂しい季節を迎えるのかと思うと心細くて・・・」
「お気の毒に・・・」
いつも同じ歌を歌って食べものはナスと煮干しの粉末だけ
お酒もお寿司も知らない籠の中の哀れな一生です
「いいえ」生き残りの鈴虫が顔を上げました。
「でも私達は土の中に小さな卵を残しました
来年の新緑の頃孵化します。
私達は昔から常夏の国を旅をしているのです」
翌日無事最後の一匹が死んでいました
置き手紙がありました
「昨夜 <お待たせ、すぐ追いつきます> といって
お迎えのバイクが来ました。ナナハン(750cc)です。
これから寂しい秋と厳しい冬がきます。
人間は頑張って下さい。じゃね」
山上 村人
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