文芸広場
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先日私は「月と雷門」という不思議な絵を入手した。不思議という言葉が適切かどうか、この際おいておこう。
全体が黒で、浅草の人通りがほとんどなくなった夜空は清晨を保ち、中天に浮かぶ月はまさに上弦の月という名にふさわしく何万年も前からの光沢を放っている。人類がこの地球上に現れる前から同じ表情を崩さないと思うと、それはもう美をこえて、怪しげな光彩とといった方がいいのかもしれない。白い雲が人の眉毛のように細く、すうっと放たれている。下にはかの有名なる雷門が今日も何千人もの人を迎え、そして見送り終わった安堵さをかもしながらひっそりと立っている。
夜空、月、雷門の絶妙なコラボレーションに私の心は美的興奮をかり立てられたのだ。そして何故か「月と六ペンス」という小説を思い出していた。サマセットモームの傑作だが、画家ゴーギャンをモデルとしたこの小説は、月を夢に例え、六ペンスという通貨を現実とし、ゴーギャンが商人という現実をすて、月という夢に走ったその結末を描いたものだ。〝我々はどこから来たのか。我々は何者なのか。我々はどこへいくのか。〟という遺書的な大作を描いて51才で人生の幕を閉じたゴーギャン。
月と雷門の絵は私の脳裡にゴーギャンを彷彿させ、しばし人生を考えさせられた。
つくば林太郎
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