トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 古代が現代に脈打つ世界唯一の国
外交評論家 加瀬英明 論集
日本は世界の近代国家のなかで古代が現代のなかで、脈々とした生命力を保っている、唯一の国である。
天皇が皇居の中にある、三つの神殿である宮中三殿において執り行われる祭祁の中で、新嘗祭がもっとも重要な祭りである。秋の収穫の祭りである新嘗祭は、夜を徹して行われる。
新嘗祭では、天皇が降臨されたアマテラス大御神と、新穀を共食される。この時には、天皇がピンセット状の竹の箸を使われて、柏の葉の皿に新穀を盛って、神にすすめられる。
ピンセット状の竹の箸は、現在の箸の原型である。京都の岩清水八幡宮から献上される竹を削って、火で炙って曲げたものだ。超近代国家である日本の中心である皇居において、原子時代の祭りが、恭々しく行われといるのだ。
西洋において古代の神話は、ギリシャ神話をとっても、ローマ神話をとっても、過去のものとなっている。アテネのパンテオン神殿も、ローマのコロセウムも、遺跡でしかない。
日本では伊勢神宮は遺跡ではない。伊勢神宮は、20年に一回、細部までいっさいが造り替えられる。式年造替と呼ばれるが、古代がそのままの姿で現代に伝えられて、生き続けている。
もう一つ、天皇を天皇たらしめているのが、お歌である。歌は言霊(ことだま)が籠った、祈りである。言霊は言葉に霊威が宿っており、その力が働いて、古代人によって発した言葉通りの現実がもたらされると信じられていた。万葉集は日本を「ことだまのたすくる国ぞ」と、記している。
今日でも、新年に当たって宮中で催される歌会始めでは、同じ和歌を二回、抑揚をつけて朗詠する。声が、朗々と皇居の杜(もり)を渡ってゆく。正式には、歌御会始(うたごかいはじめ)と呼ばれる。
西洋でも、ラテン語でよき言葉を「ベネディクション」といい、悪しき言葉を「マルディクション」という。発した言葉にしたがって、事象が変わるとされている。
私は日本に駐在する147ヵ国の在日外交団長をつとめる、サンマリノ共和国のマンリオ・ガデロ駐日大使と、親しくしている。カデロ大使は新宮殿に、しばしば招かれている。
カデロ大使が新宮殿について、こう述べている。
「陛下の新宮殿は、他の国々の王宮殿と違いますね。ヨーロッパの多くの宮殿を訪れてきましたが、みな豪華で、派手です。すごく、リッチな雰囲気です。
ところが日本の場合は、シンプル、エレガントで、心が落ち着きます。
それは、新宮や、神社で感じるのと、同じ感覚です。皇居と、伊勢神宮や、橿原神宮は、何か通じるような雰囲気があるように感じます」
日本の天皇は、質素である。日本人も質実で、清楚であることを重んじて、みせびらかしたり、金々しいものを嫌ってきた。平等で、均一な国民であってきたのだ。
ジョン・レノンはなぜ神道に惹かれたか 第7章 やまと言葉にみる日本文化の原点
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