トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 世界の中でも突出した日本人の美意識
外交評論家 加瀬英明 論集
日本人は物欲が淡泊だった。金や、銀、宝石をはじめとして、反射するものに美しさを見出さなかった。
安土桃山時代に、日本にやってきたキリスト教宣教師が、ヨーロッパの本部に送った報告書のなかに、次のような挿話がある。
宣教師がある武士に、1個の茶器に一つの国と引き換えるほどの値段がつく、という話を聞いて、「どうして、土くれにそんなに高い値打ちがあるのか?」と、質問した。
すると、武士が「それならば、あなたがたはどうして小さな石に、巨額の金を払うのか?」と、たずねた。
武士は西洋人が宝石を好むことについて、理解できなかった。日本人は、物に宿っている精神的な価値を、尊んでいたのだ。
日本の宝物はうっかり間違って、落としてしまったら、壊れて無価値になってしまうものが多い。金や、銀といった素材に、価値をみようとしないのだ。
日本では、ヨーロパや、中東や、中国と、美しさの基準が違うのだ。
日本を日本たらしめているのは、美意識である。
私たちは中国大陸や、ヨーロッパ大陸とちがって、善悪よりも美を尺度として生きてきた。清く潔いことを重んじて、穢れを嫌ってきたのも、美意識が働いている。
日本人にとって善悪は、理屈によらずに、美を基準とする感性から発している。世界のなかで、このような尺度を用いているのは、日本だけである。
アジア、あるいは世界中を見渡しても、日本ほど、美意識が発達している国はない。
日本の浮世絵が19世紀後半から、ヨーロッパへ輸出されて、ヨーロッパの美術界に深奥な影響を及ぼした。
日本趣味の潮流は、フランス語で「ジャポニスム」(英語でジャポニズム)として、知られている。
ルノワール、ピサロ、ロートレック、ドガ、モネ、ゴッホ、ゴーギャン、ロダン、ムンクをはじめとする、おびただしい数にのぼる作家が、日本に魅了された。
彼らの作品には、それまでの西洋にとって、衝撃的で斬新だった浮世絵版画の構図を、そのまま用いたものが多い。
私はしばらく前に、ドイツのヴィスバーデン近郊の寒村の美術館で、ジャンボニスム展が催されたのを観た。浮世絵版画によって、触発された先品群の展覧会である。
ロートレックや、ドガや、ゴッホをはじめとする作品と、それぞれが手本とした浮世絵を組み合わせて、展示していた。世界中の美術館から借りたのだったが、このような展覧会を企画した村民に、脱帽した。
ジャポニスムは、西洋を風靡した。その波は、陶芸器から、皿、カップなどのテーブルウェア、工芸品、服飾、壁紙などの室内装飾、造園までを洗った。
ジョン・レノンはなぜ神道に惹かれたか 8章 神道の宇宙観、キリスト教の宇宙観
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