トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ タウトはなぜ故伊勢神宮に感動したのか
外交評論家 加瀬英明 論集
日本は20世紀に入ると、ヨーロッパの近代建築にも、大きな影響を及ぼした。
ブルーノ・タウト(1880年~1938年)が伊勢神宮の内宮を訪れて、外容と内容が完全に一致しているのに驚いて、「稲妻に打たれたような衝撃を受けた」と記したことは、日本でもよく知られている。
それまでの西洋建築といえば、外装がまるでデコレーションケーキのように飾り立てられていた。20世紀に入ると、外容と内容が一致しt。鉄筋とガラスを用いた、機能的なビルが生まれるようになった。
日本の強い影響を受けた建築家として、チェコスロバキア出身のアドルフ・ロース(1870年~1933年)と、オーストラリアに生まれ、アメリカで活躍したリチャード・ジョセフ・ノイトラ(1892年~1970年)が、有名である。
ノイトラは来日して、桂離宮などの建築を訪れて、「私の空間の処理と自然に対する感性と、完全に一致した。私は生涯求めたものに、出会った」と嘆じた。
タウトは著書のなかで、ヨーロッパへの日本の影響は、甚大だった。今日の近代建築が世に出たころ、ヨーロッパの建築に最も強い推進力を加えたのは、大きな窓や、戸棚を持ち、純粋な構成を有する、簡素で、自由を極めた日本住宅だった」と、述べている。
それまでの西洋家具は、装飾が施されていた。虚飾を省いた機能的な西洋家具も、日本の影響を強く受けている。日本は、近代世界の美の師となった。
私たちにとっては、当たり前になっているが、日本では、四角、長方形、六角形とか、紅葉、瓢箪の形をした、さまざまな皿が用いられてきた。
しかし、かつては、海外のどこへ行っても、皿といえば円形か、楕円形のものしかなかった。それがいまでは、四角の皿が珍しくない。
日本料理は、まず目で官能する。素材の色や、形の組み合わせに配慮して、しつらえられる。
夏目漱石は『草枕』のなかで、画家の主人公にこういわせている。
「一体西洋の食物で色のいいものは一つもない。あればサラドと赤大根位なものだ。
滋養の点から云ったらどうか知らんが、画家から見ると頗(すこぶ)る発達せん料理である。
そこへ行くと日本の献立は、吸物でも、ロ取でも、刺身でも物奇麗(ものぎれい)に出来る。会席膳を前へ置いて、 一箸も着けずに、眺めたまま帰っても、目の保養から云えば、御茶屋へ上がった甲斐は充分ある」
もちろん、西洋料理や、中国料理や、朝鮮料理、インド料理などの海外の料理もそれぞれ、それなりの味わいがあるが、見たところを配慮することがない。
この20年ほどのことだが、私は海外でヌーポークジン (フランス語で「新料理」)を振舞われると、ほっとする。
前菜、スープ、 魚、肉、デザートの基本的な西洋料理のコースに代わって、凝った、少量の料理をメインコースとしてあしらって、つぎつぎと五、六点供される。ヌーポークジンは、日本の会席料理を模倣(もほう)したものだ。
最近のジャポニスムといえば、日本のコミックが模倣されて、日本語のmangaが、 そのまま英語、ヨーロッパ諸語の仲間入りをしている。それまでの西洋のコミックは、スーパーマンであれ、スパイダーマンであれ、登場人物がどのコマのなかでも、同じ大きさで、同じ角度(アングル)から描かれていた。
日本のコミックは、春信(はるのぶ)、歌麿(うたまろ)、写楽(しゃらく)、北斎(ほくさい)、広重(ひろしげ)の浮世絵芸術の大胆な構図の流れを汲んでいる。
ジョン・レノンはなぜ神道に惹かれたか 8章 神道の宇宙観、キリスト教の宇宙観
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