社会
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平成の間、私が愛用していた物の一つに透明なレターラックがある。そのレターラックに、名もなき一匹の猫の写真を入れ飾り続けていた。それは雑誌の切り抜きである。島々にすむ猫たちの姿を収めた特集記事の中の一枚の写真に目が留まったのがきっかけだった。私が一目惚れした猫の写真のタイトルには「沖縄の猫」と記されていた。撮影場所はもちろん沖縄。何ともおだやかな浜辺である。あたたかく柔らかな夕陽を受けた猫の端正な横顔には神々しいものがあった。私は、海のない県とも言われる埼玉の川沿いでうまれ育った。川に沈み行く美しい夕陽を日常的に見て過ごすことが出来たし、緑の豊かなことも相まって、自然の美しさにはかなり恵まれていた。にも関わらず、名もなき「沖縄の猫」の横顔の写真は未知なる自然の美しさを知らせてくれたのはもちろんのこと、どこか語り尽くせない物悲しさをも伝えてくれていた。
6月23日は沖縄慰霊の日だった。私はその式典をテレビ中継で見守らせていただいていた。沖縄の地に厳かに降る雨が祈りの質を高めていたようにも感じた。慰霊碑にはたくさんの方々の尊いお名前が刻まれている。刻まれたお名前の数と実際に帰ってくることができたご遺体の数とは比例していない。この事実には震える思いを禁じ得ない。慰霊碑に刻まれているのは正に魂たちである。74年前の沖縄戦には実感がわかない、というどこか寂しい意見もあったが、展示品を工夫したり、何とか歴史を語り継ぎたいという意志があることには安堵を覚えた。
ところで私には平成の終わりから暮らし始めた二匹の愛猫がいる。そのうちの一匹は、平成の間ずっとレターラックに飾っていた、名もなき「沖縄の猫」に全くもってそっくりなのである。
沖縄慰霊の日の式典では利発な小学生が幸せを願う朗読をしていた。私もまた、馳せても馳せきれない想いやいたみを忘れることなく、幸せをかみしめて令和を生きたい。猫や動物、自然、先人隣人に学びながら。
葉桜 こい
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