社会
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『万葉集』からの出典という点でも注目をされ、歓迎の声とともに産声をあげた新元号の令和は既に二年目に突入し、本格的に梅の香る季節も間近に迫ってきた。
昨年の新語・流行語大賞で「令和」は堂々のトップ10入りを果たした。またトップ30には注目の「翔んで埼玉」が挙がったことも記憶に新しいところだ。
映画『翔んで埼玉』の勢いはとどまるところを知らず、第43回日本アカデミー賞(1月15日発表・授賞式は3月6日)においては、各賞を総なめにしてしまった。特に、二階堂ふみさんは『翔んで埼玉』では中性的で奇抜な男性役を熱演し、優秀“主演”女優賞を、更に『人間失格 太宰治と3人の女たち』では繊細な演技が評価され、優秀“助演”女優賞をも重ねて受賞。さすがである。
『翔んで埼玉』は、二階堂ふみさん演じる生徒会長の檀ノ浦百美とGACKTさん演じる転校生の麻実麗との間にめばえた恋心が描かれてあり、なぜかしらねど、宮廷の雅やかな恋愛の歌が多い、『万葉集』の世界を彷彿とさせる作品でもある。
映画の中で檀ノ浦百美(二階堂ふみさん)の言い放つ「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」は、あまりにもインパクト絶大な迷セリフである。またこの強烈なセリフを浴びせられていたのは、加藤諒さん演じる「元・埼玉県人」の下川信男である。信男は、主人公の百美と麗たちの通う名門・白鵬堂学院の学生なのだが、校舎の外れの荒涼とした小屋に追い払われ、貧しき生活を強いられていた。
『万葉集』巻五の「貧窮問答歌」で知られる歌人の山上憶良(やまのうえのおくら)はこんな歌を詠んでいる。
・「世間(よのなか)を 憂(う)しとやさしと思へども 飛び立ちかねつ 鳥にしあらねば」(訳:世の中を辛く恥ずかしいものだとは思うが、だからと言って飛び立って逃げることもできない。鳥ではないのだから。) 『万葉集』の他の歌たちとは一線を画した作風にぎくっとさせられる。山上憶良の歌のように、悲痛な叫びを秘めた暮らしぶりの「元・埼玉県人」信男。辛辣な迫害を受け続けながらも健気な哀愁を漂わせ、存分に魅せてくださった加藤諒さんの演技も、日本アカデミー賞の助演男優賞ものだ。
ところで山上憶良は、同じ『万葉集』の梅の宴の中ではこんな歌も詠んでいる。
・「春されば まづ咲く庭(やど)の梅の花 独り見つつや 春日(はるひ)暮(くら)さむ」 (訳:春になるとまず最初に咲くのはわが家の梅の花だ。それを私一人で見ながら一日を過ごすなど、どうしてできようか。)
「元・埼玉県人」として蔑まれてきた信男が、梅の開花のように「現・埼玉県人」として返り咲こうとする姿と重ねると、なぜかしらねど、じわりじわりとした迫力を帯びて感じられる。かくして、埼玉県人たちが冬を越え春に向かい、翔んでは富んでゆく様子を、いにしえの歌人・山上憶良は、とっくに預言していたのだろうか。
葉桜 こい
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