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外交評論家 加瀬英明 論集
このところアメリカでは、「ミーイズム」(meism)という言葉が流行っている。この二、三年ぐらいのことだろうか。雑誌や、本のなかにもさかんにでてくる。
このような風潮は、日本にも押し寄せてきている。一口でいってしまえば、「自分を大切にする」ということであろうが、サラリーマンのあいだで話題になっいる〝ホビー論〟とか、〝ライフワーク〟、〝生き甲斐論〟から、ジョギング、ひところのルーム・ランナーや、ぶらさがりといったような自分の体づくりのブームまで、人々の関心が自分へ向かうようになっている。
このように関心が自分へ向かう、いってみれば〝自分至上の時代〟がやってきているのは、何といっても経済繁栄によって、かつてのように他人や(青年の場合は親にさえ)、組織に以前ほど経済的に依存しなくてもすむようになったからである。嫌になったら、親元を離れても、会社を辞めても、昔のように路頭に迷うことはない。経済的な自立度が高まったおかげで、周囲に対する個人の地位もいっしょに高まることになった。
もう一つには、アメリカでも、日本でも最後の〝ベビーブーム〟の結果、六〇年代までは子供が人々の関心を集める時代が続いたが、七〇年代に入ると国民の平均年齢が急速に高まり、大人の時代に入ったといえることがある。アメリカでは国民のうち二十一歳以上が、六十五%を占めるようになっている。日本でも昭和三十四(一九五九)年には、国民のうち二十歳以上は五十九%にしかあたらなかったのに、今日では六十九%にまで膨張している。
余暇時間が増大した、また平均寿命が伸びて高齢化社会が到来したことも、「自分を大切にする」傾向を強めていよう。これまでは人々は勤勉に働く自分の姿だけを描いて生活していればよかったが、定年に達して退職してから何か職を求めたとしても、まだ二十年近くも自分の時間があるのだ。そこで自分をつくって、開花させ、自己表現を行なうことがどうしても必要となってくる。
〝ミーイズム〟という言葉は、アメリカでははっきりとした定義があるわけではない。「自分を大切にする」さまざまな現象を指している。「個」を強調する時代であるといえる。
もっとも〝ミーイズム〟は自分至上主義であるから、かなりなまでナルシズムをともなっている。そこで男性までがファッションや、化粧品を買いに走るような面もある。しかし、こういったことも自分を大切にして、自信を持つことであるから、いちがいに悪いことだとはいえまい。ただ、ジョギングや、ぶらさがりといった健康法や、男のおしゃれをみていると、自分をペット化しているようにもみえる。どこか自分をペットにして連れ歩いているようなところがある。
個性の時代であるから、服装であれ、趣味であれ、勤労時間であれ、お仕着せの時代は終わろうとしている。かつては人々により多く買わせるために、「消費者は王様」といっておだてたものだった。今日では「個人が王様」となりつつある。個人のさまざまな好みに合わせて商品が多様化する一方、量産される日用品については画一的な大量宣伝による銘柄志向が弱まり、機能本位で商品を求めるようになっている。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 一章「ミーイズム」のすすめ
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