トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 自ら求める教育へ
外交評論家 加瀬英明 論集
かつてアメリカの偉大な教育学者であった、ロバート・ハッチンズは豊かな社会の到来とともに、人々にとって学ぶことがもっとも重要な活動となる「学習する社会」が出現することを予見したが、今日では教育の意味も大きく変わりつつある。かつては教育は社会が欲するような種類の人間をつくりだすことを目的としたので、多分にお仕着せ的な性格をもっていた。いまだに学校教育はそのような機能を果さねばならぬものの、とくに学校を出て社会に加わった後には、今後は社会に合わせるよりも、個人が自分に合わせた自己開発に重点が移ることになるだろう。
教育はもはや学校のなかだけに閉じ込められることがない。かつて静的な社会では、古典的な教育が行われていた。しかし今日では科学技術の進歩と豊かさが増大することによって、それまであった考えかたを急速に壊してゆくので、文字通りの動的な社会をつくりだしている。そのなかに生活しているので、社会に適応してゆくためには大学を卒業した後も、仕事のためにも、つねに学習していなければならない。
しかし、これからは収入を増すとか、仕事とは関係なく、自分自身の開花のために行う学習が求められるだろう。趣味や、生き甲斐といったものも、このなかに入る。教育は上から授けられるものではなくて、自ら求められるものとなる。
偶然、雑誌をめくってみても、アメリカ型の〝ミーイズム〟がかなりの勢いをもって日本にも浸透しつつあることが分かる。広告は、その時に社会をうつす格好な鏡である。
「自宅でやれる一日5分の自己強化精神修養 禅 直接指導! 座禅用具一式を揃えてあなたにすぐお届けします。ご指導は鎌倉報国禅寺住職〝菅原義道〟師 会費は分割アト払 10000円×3回 一括払割引19800円」(『サンデー毎日』、昭和五十三年十一月十九日号、一ページ広告)この広告には、法衣をまとって、瞑想しているようなポーズをとった菅原師といっしょに、〝座禅用具セット〟の写真が載っている。一万九千円で悟りがひらけるのだ。「瞑想 かぎりなき精神の飛翔と知性の拡大 チベット・ヒマラヤの神秘的な瞑想の場が、東京の青山通りと京都の河原町通りに出現した ニホン・メディテーションセンター」(『週刊文春』、二月一日号、一ページ広告)というのもある。「瞑想室」のなかで「虚空を吹きわたる風の音、ごうごうたる大瀑布の音響」がテープで流されているというのは精神版のルームランナーか、ぶらさがりといった健康器具のようなものだろうが、これからこういった新しい商売は、増えてゆくはずである。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 一章「ミーイズム」のすすめ
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