社会
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高校で学んだ「世界史」では、米国の歴史は1492年、大西洋を横断したコロンブスが北米大陸に近いカリブ海の島に到着したことから始まる。以後、ヨーロッパ人が移住を開始するのだが、そこには彼らから「インディアン」と総称された先住民が住んでいた。移住者たちは先住民の土地を奪い、強制的に条件の悪い他の地域に追いやった。
かつてハリウッドで制作された西部劇では、先住民インディアンと白人たちの戦いを扱ったものが多かったが、なぜ先住民が敵役になるのかは説得力がなかった。『駅馬車』をはじめ、その種の西部劇を作ってきたジョン・フォード監督が晩年、逆に先住民の立場からの作品を発表したことには納得できた。
大陸の支配者となった欧州からの移住者たちは、アフリカ大陸から多数の黒人奴隷を連れてきて、南部の広大な農地の労働力とした。奴隷制度をめぐっては南北戦争が起こり、北軍の勝利で奴隷は解放されたが、その後も黒人差別は米国の根深い問題となった。
南北戦争を時代背景に南部の没落富豪の娘の波乱の人生を描いた大作映画『風と共に去りぬ』(1939年)は南部の立場がもとになっていて、奴隷制についても肯定的と受け取れるシーンがあった。5月末に米国で黒人男性が白人警官に首を圧迫されて死亡した事件をきっかけに、人種差別の歴史を見直す動きが急速に高まっている。『風と共に去りぬ』の動画配信サービスは一時停止となり、本編の前に当時の事情についての解説を付けることで再開となった。
この動きは先住民の問題にも及んでいる。米国プロフットボールNFLのワシントン・レッドスキンズは87年ぶりにチーム名を変える決定をした。チーム名が意味する「赤い肌」は先住民を侮辱するとされていたからだ。野球界では大リーグのインディアンスも100年以上続くチーム名の変更を検討中だ。国の歴史の負の部分にも目を向け、既成概念の変換を受け入れる姿勢には驚くとともに敬意を表したい。
先住民族については最近の日本でも動きがあった。アイヌの文化を未来に継承する拠点として、北海道白老町に民族共生象徴空間、愛称・ウポポイが開業したのだ。その中心は国立アイヌ民族博物館で、民族衣装や工芸品などを収蔵・展示する。アイヌ文化を体験できるゾーンも設けられた。
この背景には国連総会で「先住民族の権利に関する国連宣言」が決議され、日本でも昨年、アイヌ新法が成立し、初めて法律に先住民族と明記された流れがある。しかし、国連宣言にある「収奪された土地や漁業権などの権利回復」は新法にも盛り込まれていない。
しかも、ウポポイ開業直前に萩生田光一文部科学相がアイヌへの差別について「原住民と新しく開拓する皆さんの間に様々な価値観の違いがあったのだろう。差別という言葉でひとくくりはどうか」と発言した。反発を受け、翌日に苦しい釈明をしたが、教育行政の長として史実に関する知識の欠落は目をおおうしかない。
山田 洋
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