文芸広場
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太郎が人語を話す亀に乗ると
太郎の周囲は不思議なバリアが出来ていた
波の下は巨大な水族館のようであった
亀は太郎を珊瑚の林の中の竜宮に案内した
太郎の入ったシャボン玉のようなバリアの回りには
さまざまな魚が不思議そうに近づいて来ては消えた
魚達は人間を傍で見るのは初めて・・・
噂を聞いて集まって来ているとのことであった
沈没船の中にあったが固くて食べられないと
金貨を咥えて来た魚がいた
亀だけがバリアの中に自由に出入りし
食物を届け魚たちの通訳をしてくれた
亀の主が礼を述べたいということであった
主というのは人魚姫であった
人魚姫は美しい顔立ちであったが目が見えなかった
人魚姫はバリアの中に亀と一緒に入ることが出来た
気がつくと二人の間には
共通した話題がなかった
人魚姫は太郎に見えない目を向けて寂しいと呟いた
何度か同席したが言葉のない時間が多かった
太郎は竜宮にいとま乞いし
元の三本松のある磯まで亀に送ってもらった
村に戻ると平凡な太郎の身に何も変わったことはなかった
長い間竜宮で過ごしたような気がしていたが
実際には三日ほどしか過ぎていなかった
太郎は何故か人魚姫の横顔が忘れられなかった
暮れなずむ浜辺で太郎は玉手箱を開いた
玉手箱の真珠は小さくなり光を失っていた
太郎が真珠の小粒を海に返した
真珠は波間を分けながら人魚姫の冠に届いた
真珠は冠の中でかつてない輝きを取り戻した
太郎が人魚姫の気配を感じ顔を上げると
満天の星が輝いていた
太郎は光の網の底の一匹の魚であった
山上村人
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