社会
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才気溢れる俳優の三浦春馬さんが、七月に人生の幕を閉じてからまだ間もない。喪失感はもちろんのことだが、春馬さんの存在感がますます胸に迫ってくる八月である。
ところで、役作りでとことん自分をそぎおとした時の三浦春馬さんの風貌が、芥川龍之介と重なって見えることがある。芥川は三月の、春馬さんは四月の上旬の春生まれだ。梅雨明けと重なる七月の半ば過ぎに、ともに三十歳代で惜しまれながらも尽き果てた二人。彼らの命日が一週間ほどの近さなのは果たして偶然なのだろうか。
地獄の描写も得意とする芥川龍之介作品の中に『杜子春』という短編小説がある。春馬さんには青年・杜子春(とししゅん)の役を演じられるだけの感性と実力がある。『杜子春』に登場する謎の老人(仙人)は、春のある日に杜子春と出会い、繰り返し彼に不思議な体験をもたらす。老人は杜子春の運命の鍵を握っていたのだ。ある時、放蕩の限りをつくした杜子春は、意を決して仙人になるための手解きを老人に懇願する。老人は、仙人修行の一環として「自分の留守中、何があっても決して口をきくな」と念を押す。言われた通りに、何があっても全く音を上げない杜子春。残酷な地獄の責め苦の中でも、ずっと口をきかず耐え続ける杜子春の凄まじい姿は、春馬さんの役者魂のようである。小説の中の杜子春は、思わず口をきくことによって生を得る。しかし春馬さんは、本当にずっと黙り続けたため、謎の老人に命を奪われたのかもしれない。
真相は、それこそ藪の中だ。ただし、春馬さんは人徳にあふれていたため、簡単には切れることのない、丈夫な蜘蛛の糸で織られた、柔らかなハンモックに横たわる権利を持っている。春馬さんの笑顔に感謝、そして合掌。
葉桜こい
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