トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 豪華な酒を飲むことの貧しさ
外交評論家 加瀬英明 論集
銀座の「超豪華」だといわれるクラブは、日本の物質的な、そして精神的な貧しさの象徴である。もちろん美しい女性に囲まれて、酒を飲むのは楽しいことだ。しかし、こういう店では、おそらく値段が高いほうが、喜ばれるので、接待するほうも、されるほうも晴々とした顔をしている。そして、こういった店なら、たいていはシャンデリアが天井から下がり、どこかに高価な陶器が置かれていたり、絵がかかっているという趣向になっている。一見して、金がかかっているのが分かる。豪華だということがわからなければならないのだ。
しかし客が豪華さを味わい、それが売り物になるというのは、これまでの生活が貧しいからだと思うと、寒々しい光景である。
日商岩井事件があってから、新聞の記事のなかで自殺した島田三敬常務がバーに行くと、いつもレミー・マルタンを飲んだということが書かれていた。海部八郎前副社長も日商岩井の前身でまだそのころでは小さかった日商に入社したころから、幹部の一人から見込まれて特訓を受けたという。海部氏はこの幹部からどのような高級酒を注文したらよいかという、酒の飲みかたまで教えられたというのだ。もし、このような記事が正しかったとしたら、海部氏も、島田氏もくつろいで酒を味わうこともできなかったのだろう。ちょっと高級な時計や、ライターを飲み込むようなものである。
食べ物や、飲み物まで、そういうことによって支配されるのであれば、肩が張ることである。一つの自己否定であろう。自分を殺して、レミー・マルタンを自分に飲ませたり、高級といわれる料理を食べさせることになってしまう。ほんとうは自分の好きな地酒でも酌んでいる男のほうが、自分のものを持っているのではないだろうか。うわべだけのポーズで酒を飲むのでは、苦労も多いことである。
高級品にせよ、豪華な店にせよ、私たちの貧しさを表しているようである。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 四章 「贅沢」という名の「貧しさ」
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