トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 自分自身の空間を持つことが重要
外交評論家 加瀬英明 論集
家庭が女の領域となると、男の居場所がなくなってしまう。そして、ますます下宿人化するという悪循環が始まる。女のほうは下宿人化した夫に半ば捨てられたと思うので、家は女の逃げ場所となって、夫はいっそう排斥されることになる。そのうえ日本人は田舎から都会へ出てくるときに地縁を失ってしまい、といって公共の概念が薄いから、隣近所の人々と親しくないので、家庭のなかにいる妻が孤立して、子供に過度な関心を注ぐ結果、家庭は子供も含めて、誰にとっても陰湿な場所になってしまう。日本では家庭は妻に属しているために、夫の友人が出入りするところではない。そのために家庭は密室化してしまうことになる。
今日、家や、マンションを求めて、妻と子供と住もうとしている中年層―三十五歳以上を中年としよう―の男性は、戦後の焼野原のうえに始まった復興期に育ったので、美しい家というものを知らない。ところが、ようやく家らしいような家が建つような時になってみると、家は妻と子供の城であるので、わが身を置く場所がない。
そこで、たまの休みの日に家にいても、いる場所がないから、〝窓際亭主〟となってしまう。地価が高いためにスペースが十分にないということもあるが、家に居場所がないために、新聞を持って車に逃げ込むという話をきいたことがある。
このごろでは、働く男性にも個性が求められているという。会社でも個性を殺して群に適応するよりも、独特な発想を持っている個性的な人間のほうを歓迎するといわれている。このために生き甲斐論や、趣味論もさかんであるが、もう一方では日本が次第に豊かになったために、人生を自分なりに楽しむゆとりもでてきたのだろう。
個性を持つためには、自分だけの静かな時間を持つことが必要である。日に三十分、一人で散歩することも役に立つ。あるいは自分の部屋で一人でものを考えたり、本を読むことも必要だろう。群から離れて、自分と話す時間と場所を持つことである。自分が主人となれるような場といい替えてもよい。
こういったことから自分の書斎を持ちたいという要求が生まれるのだろう。私は子どもたちを一部屋に入れて、蚕棚に寝せてもよいと思う。もっとも子供が思春期になって、男女をいっしょにすることが思わしくないのなら、子どもたちの部屋を小さくしても、小さな書斎である自分自身の空間を持てるようにしたい。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 7章「家庭」のなかの個人
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