トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 男の書斎は密室であってはならない
外交評論家 加瀬英明 論集
本来、男の本拠は家の部屋のなかにあるべきで、勤め先の大部屋に並ぶスチール机であってはなるまい。自分の溜り場を家のなかの一室に、持つべきである。そしてもっと家で時間を過すべきである。誰にも邪魔されることなく、会社から持ってきた仕事をしてもよいだろうし、思いつくままに詩や、小説を書いてもよい。一人で酒を飲みながら、本を読んでもよいだろう。模型をつくっても、絵をかいてもよい。
このようなことを考えているあいだに、婦人雑誌の親しい女性編集者と男の部屋や、女の部屋について話すことがあった。すると彼女は女性が求めているのは、洗濯物を整理したり、洋裁をする家事室ではなくて、一人で自分の好きな本を読んだり、ものを書いたりする部屋だというのである。男の書斎の妻版である。
もっとも夫が書斎を持てば、妻は夫婦の寝室に机を置いて、寝室を自分の空間とすることができる。アメリカや、ヨーロッパの家では夫婦の寝室を、妻の書斎的な空間に兼用していることが多い。
日本では基本的なスペースが小さいので、住宅について考える時に、どうしても制約されてしまう。建設会社のアイディア・グループに加わっていた時にも、いつももとになるスペースが障害となった。やはりスペースがある程度なければ、どうしようもない。
しかし、かりに男が家で書斎を持つことができたとしても、〝女の城〟のなかでせめて男の場所を確保しようということであってはなるまい。それでは家庭のなかに、亭主の密室をつくるだけのことになってしまう。書斎をつくるのは、逃げ込む場所を求めることではない。書斎を持つとともに、家庭において父性原理を回復しなければならない。
そのためには、家を夫婦の共通の空間と変えなければならない。男が主人として、もっと家庭生活に参加する必要がある。〝女の城〟を夫婦の〝二人の城〟とするか、〝父性の城〟とすることによって、家庭を自分の手のなかに奪い返すのだ。それでなければ家の主人でもないのに、書斎に籠っているのも不思議なものである。いってみれば書斎は男の司令部であって、逃避する穴ではない。そして同居人の地位から、主人の地位まで昇らなければならない。
応接間のソファを並べかえる時や、壁に絵をかけるといった些細なことについても、夫の許しがなければできないという雰囲気をつくっておく必要がある。そのかわりに男のほうも、家庭のなかの細かい事柄までに気を配る責任が生じてくる。男がもっと主張しなければならない。
書斎は一人でいるところだけでなく、夫婦が子供に聴かれたくない話をしたり、あるいは子供と二人だけで話をする場所である。
そして家庭をもっと外部へ開放しなければならない。孤島のように密室化した家庭は、不健全な〝女の城〟となりやすい。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 7章「家庭」のなかの個人
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