社会
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寅年の新年早々に那須サファリパークで飼育員の男女3人が雄のベンガルトラに襲われて負傷し、1人は右手首を失った。このニュースに私は身震いするほどの衝撃を受けた。野生のトラ見たさでジャングルの中に入って行った過去の冒険旅行を思い出したからだ。
1月に阪神・淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件があった1995年の8月、私は高校生だった長男を連れてネパールを旅した。この国にはそれより20年以上前に行って魅せられ、再訪したのだが、カトマンドゥやポカラなどの観光拠点は面影がないほど変貌していた。この2人旅で最も楽しみにしていたのは初めて行く野生動物保護区のチトワン国立公園だった。亜熱帯の中央ネパール南部にあり、ジャングルや草地が東西80キロ、南北23キロに広がり、インドとの国境も近い。
ワニが生息しているという大きな川を木の船で渡ると国立公園だ。川辺には何頭ものインドゾウがいて、ゾウ使いたちが水浴びをさせている。ロッジ風のしゃれたホテルの庭にはシカが入り込む。近くを歩くと子猪が足音高く目の前を通り過ぎた。
ここでのハイライトはゾウに乗ってトラを見に行くサファリツアー。さっき川辺にいたゾウの背中に4人ほどの客席が置かれ、ゾウ使いの手綱さばきで2頭がジャングルの中を進む。小動物が周りに見えるがトラは出てこない。しばらくするとゾウが止まった。ゾウ使いが指し示す先には巨大な2頭のインドサイが静かに木の葉を食べていた。角がそそり立ち、胴体をおおう皮は独得な形状で西洋の甲冑をつけているみたいだ。雌雄の見分けはつかないそうだが、2頭はつがいのようだ。
しばらくサイを見ていたら、ゾウは来たコースを引き返し始めた。みごとな一角獣を目前にした興奮でトラを見られなかった不満を忘れた。インドサイもベンガルトラも生息数が激減し、絶滅の危機に瀕した。保護策によってサイの数は戻ったが、トラは少ないままだ。警戒心が強いこともあって、トラが姿を見せるのは稀だ。「トラを見に行く」というのは観光客向けのあおり文句のようだ。
ネパール旅行からしばらくして、テレビの旅番組でチトワン公園が取り上げられ、ゾウに乗ってのサファリも紹介された。驚いたのはトラが出てきた場面があったのだ。ゾウも興奮して激しく動き、背に乗った観光客が振り落とされまいと必死になっているのが映し出された。トラの強さは時にはゾウをも倒すと言われる。20世紀初頭にはネパールとインドで436人もの人間を殺害したトラがいた。万が一、私たちがトラと遭遇していたら、どうなっていただろうか。戦国武将の加藤清正が朝鮮出兵の際に槍でトラ退治した話(鉄砲使用が事実らしい)を子供の頃に聞いて、トラを甘く見ていたかもしれない。それをあらためて知らされた新春の事件だった。
山田洋
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