トップページ ≫ 社会 ≫ ウクライナの物語『隊長ブーリバ』を読み直して
社会
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ロシア軍によるウクライナ侵攻で、忘れかけていた地名が蘇った。世界でも有数の原子力発電所があるザパロジエ(ザポリージャの表記も)だ。小学校高学年の時に読んだニコライ・ゴーゴリ(1809~1852)の『隊長ブーリバ』の舞台になっていた。ウクライナに生まれたゴーゴリはロシア・リアリズムの創始者とされ、後のロシア文学に大きな影響を及ぼした。今、また『隊長ブーリバ』(原久一郎・訳 潮出版社 2000年刊)を読むと、比喩や誇張、饒舌調の表現があふれ、それが残忍な戦闘描写を和らげている。だからリアリズムとはちょっと違う。そして私が以前に読んだのは、原作を少年少女向けに直したものだとわかった。
時代は17世紀ごろと思われ、ウクライナのコサック軍の連隊長タラス・ブーリバの2人の息子がキエフの神学校を卒業してザパロジエに帰ってきたところから物語が始まる。コサックとは封建領地などからこの地に移住してきた人たちの集団で、農耕や牧畜、漁業をしていて、戦時には強力な軍隊と化した。
親子3人は戦地に向かうが、敵は何とポーランド軍だった。次男はキエフにいたころ、ポーランドの将軍の令嬢と出会い、強い恋心を抱いた。彼女の召使いがこっそり彼のもとにやってきて、コサック軍に包囲されたポーランドの町は食糧がなくなり、「お嬢様は昨日は何も食べてません」と言う。次男は袋に食べ物をつめこんで令嬢に届けた。コサック軍を裏切ることになった彼は父ブーリバの手で殺害された。両軍の戦闘により長男は敵の手に落ち、敵中に潜入した父の目の前で処刑された。
老いても深い経験と軍隊指揮の技量、そして敵に対する激しい憎悪により、ブーリバの連隊はコサック軍の中で卓越していた。容赦しない彼らの猛攻に対してポーランドは大軍を差し向け、ついにブーリバは捕らえられ、火あぶりにされた。
全編を通してウクライナコサックの勇猛果敢な戦闘と、それを支える正教を信奉するコサック魂が描かれる。これはウクライナ国歌のラスト「我らがコサックの民族であることを示そう」という歌詞に受け継がれている。プーチンのロシア軍に頑強に抵抗しているのもわかる。
1962年にはハリウッドでユル・ブリンナーやトニー・カーティスら人気スターを起用して映画化された。今度のウクライナ戦争ではウクライナ民話の絵本が話題になっているが、『隊長ブーリバ』は注目されていない。今、ウクライナからの避難民を最も多く受け入れているポーランドが敵役になっているのがその理由だろうか。
山田洋
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