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桜の花の勢いが盛んだった先月末。フィギュアスケート世界選手権で、宇野昌磨選手が初優勝を遂げた。悲願と報じられたように、宇野選手にとっては6度目のチャレンジである。またこの優勝に花を添えた音楽はラヴェルの『ボレロ』だった。
今から38年前の1984年。サラエボ冬季五輪では、アイスダンスのトービル&ディーンペア(英)が、芸術点で「オール満点」という驚異的な記録を叩き出した。
その後この大記録を破る者は現れず、選手達にとって『ボレロ』の演技は一つの壁であった。
サラエボ冬季五輪で優勝したトービル&ディーンペアは、ルールの盲点をついた挑戦的な演技を重ね、氷にあえて倒れこむという、当時では常識破りのフィニッシュを成功させた。その姿は「氷上の“死”」と称され話題となった。
一方、宇野選手の滑りからは、丹念に『ボレロ』を磨きあげてきた年月の深みが感じられ、その姿は静かなる火の鳥さながらであった。次第に笑みもこぼれ、フィニッシュでは胸を張ったポーズを決め優勝。新たな話題となった。
『ボレロ』の演技の壁を超えた新王者・宇野選手の清々しさは、「氷上の“生”」の様相を帯びていた。
宇野選手はインタビューで「優勝が自分にとってゴールではなかったんだな。ここから始めてもっともっと圧倒的な存在になれるよう練習を積んでいきたい」と述べていた。
桜の花が散ることは、桜にとって必ずしもゴールではないのかもしれない。
常に今あるここから始めるべきことは、実はたくさんある。『ボレロ』に宇野選手にならい、繰り返し繰り返し地道なステップを積み重ね、次なる春を迎え続けてゆきたい。
葉桜こい
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