トップページ ≫ 社会 ≫ 「社員が第一」の会社を増やしたい
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岸田文雄首相は「新しい資本主義」というスローガンを掲げたが、その中身は明確ではない。直面する経済的諸問題は現在の資本主義に起因するという認識は持っているようだ。当然、日本の資本主義の基盤たる個々の企業についても調査し、その実情を明らかにしなければならない。
元法政大学大学院教授の坂本光司氏は中小企業を中心に研究してきた経営学者で、およそ50年間に国内だけで8000社以上を訪問し、自らの目と足で調査してきた。その中で特筆すべき会社の話などを東京新聞夕刊に連載中だ。企業は何のために存在するか。企業の使命とは何か。それは社員ら多くの人の幸せを実現することで、業績はそのための手段でしかないのに、業績を目的とする間違った経営が多いと坂本氏は指摘する。
日本には50以上の経営学会があり、坂本氏もそのいくつかに所属し、たびたび研究発表をしてきた。しかし、「株主や顧客より社員が第一」といった主張をするので、次第に「もう発表しないでくれ」という扱いを受けたという。大学で教える経営学は業績重視、株主重視、成長重視、コスト重視と言っても過言ではないからだ。こうした経営では人間無視になりがちだ。そこで旧態依然の経営学の「創造的破壊」が必要と考え、「人を大切にする経営学会」の創設に動いた。当初の発起人には70人ほどが名を連ね、発起人代表には坂本氏とともに有力な学者、世界銀行の元副総裁、敏腕弁護士など5人が就いた。
いい会社を1つでも増やしたいとの思いから、2010年に企業の表彰制度「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を立ち上げた。いくら業績がよくてもリストラや下請けいじめなど、誰かを犠牲にした会社は表彰対象から除外した。「史上最も厳しい表彰制度」と言われ、創設の打ち合わせをした経済産業省の担当官も「こんな応募資格、審査基準で該当する企業はありますか」と目を丸くしたという。でも、いざフタを開けてみると、応募は50以上あり、下請け企業や銀行からの他薦も多かった。
坂本氏を「人を大切にする経営学会」に向かわせた原点は、かつて出会った2社にあった。20年前に訪ねた川崎市の日本理化学工業はチョーク製造の会社で、1960年に初めて知的障がい者を雇用した。特別支援学級の先生から就職が決まらない2人の女生徒の就業体験を頼まれたからだ。2人は休憩も忘れて作業を続けた。働く喜び、人の役に立つ喜びを初めて知ったのだ。2週間の体験が終わろうとした時、全社員が専務を囲み、「あの子たちを正社員として採用して下さい。できないことがあれば私たちが支えます」と訴えた。以来、同社は少しずつ障がい者雇用を増やし続け、今では社員約90人のうち63人。会社の姿勢に共感し、発注や購入を通じた応援の輪が広がっているという。
もう1社は30年以上前に知った「いい会社をつくりましょう たくましくそしてやさしく」を社是にする長野県の伊那食品工業。大切にされる社員のモチベーションが高く、手がける製品は顧客の心をつかんだ。斜陽だった寒天商品を復活させ、48年間、コツコツと増収増益を重ねて社員の給料を上げ続けた。
このような会社を表彰しようとして始めた大賞は昨年度で12回を数え、受賞数は計194件に。中小企業ばかりでなく、上場企業など大手企業の受賞も増えて6%を占めている。坂本氏は「規模が大きくても、また株主の利益が求められる上場企業でも、人を大切にする経営は十分に可能なのです」と明言する。「新しい資本主義」でもこうなって欲しいものだ。
山田洋
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