トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 女性の職は「キャリア」か「ジョブ」か
外交評論家 加瀬英明 論集
OLと呼ばれる、若い女性たちが職場に勤めるもっとも大きな理由は、学校を出てから、よい相手の男性をみつけて結婚するまでの間、社会を経験してみたいという事だろう。高校か、短大か、大学を出てから、結婚するまで何年かかるのか、そのひとや、運によってちがうだろうが、この間に世間を見ようという魂胆なのだろう。
彼女たちにとって職場は、よくいわれることだが一時の腰掛けである。ほとんどの者が自宅で両親とともに生活しているので、小遣いを十分すぎるほどに持っているから、国内や海外へ旅行したり、不必要なものを買ったりして〝独身貴族〟の生活を楽しもうとする。一人でアパートを借りて自活しているとしても、まず結婚を目指しているはずである。しかし、どちらにせよ、男性とはちがって仕事は二の次ということになっているのだろう。彼女たちは職場のOL仲間とお喋りしたり、酒を飲んだり、時には男性と適当にアバンチュールを愉しむかもしれない。とにかく彼女たちにとってはこうした生活のほうがほんとうの生活であって、職場はそれを支えているのである。だから会社のほうが〝お茶汲み〟か、男性の補助員としての仕事を割り当てているとしても、当然なことなのだろう。
もっとも、このようなOLたちのほうが、仕事の場の他に自分たちのほんとうの生活を持っているということでは、職場で彼女たちを使っている男性たちよりも、時代的に一歩進んでいるのかもしれない。大多数の男性が職場を中心として生きているというのは、どうしようもなかった貧しい時代からきたものであって、ようやくこのごろになって中年男性の〝生き甲斐論〟とか〝趣味論〟がサラリーマン雑誌を賑わすようになっているが、まさか生き甲斐とか、趣味は本を読んで体得できるものではないから、それだけに男性が戸惑っていることを示している。
ところが、OLたちの職場の外での生活も、よい相手をみつけて結婚生活に入ることを前提としているから、一時的なものである。彼女たちにとっては、ほんとうの生活は結婚してから始まるのだ。だから、OL生活は休日のようなものとなる。
英語では「職」に、二通りの区別がある。ジョブとキャリアとに分かれる。ジョブはパン代を稼ぐための一時凌ぎの雇われ仕事であり、キャリアは生涯にわたって取り組む仕事を指している。アメリカではさまざまな分野でキャリア・ウーマンが増えているが、日本ではまだ珍しい存在であるので、官庁の局長や、課長や、大企業の部長や課長になると、女だからということだけで新聞の人物欄に取り上げられることになる。
日本のキャリア・ウーマンのなかには職場で男性に対しても、まったく遜色のない女性がいる。しかし彼女たちは、大半の働く女性たちのために損をしていることだろう。
それに日本の場合では、男性の場合でもキャリアとジョブの差がはっきりとしていない。大学に進む時にも、自分がどのような分野において自己をもっとも表現したいのか、ということが尺度となるよりも、どの大学ならどの学部に権威があるからといって、経済、法科とおかまいなしに入学できるところに自分をあてはめてしまう。就職率がよいということが、主な尺度となる。就職する時にも、まったく同じような物差しが使われる。商社でも、保険会社でも、メーカーでも、新聞社でも一流であればよい。自分に合ったキャリアを選ぶよりも、できるだけ安定した生活を保障してくれるところを求める。
仕事に生きる女性のなかにも、OLが婚期を逸したので、そのまま職場に残っているという者が少なくない。ハイ・ミスといわれる人たちがそうだ。しかし今日のOLの多くが大学卒であるのに、会社のほうからみれば結婚までの一時の腰掛けか、真剣にキャリアを求めているのか区別しにくいから、女性は損である。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 8章「母親」としての女性
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