社会
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日曜朝のTBSテレビ「サンデージャポン」に1年前から、生真面目で場違いのような学者が登場している。東京大学准教授の斎藤幸平さん(37歳)で、ドイツのフンボルト大学哲学科博士課程を出た経済思想の専門家だ。2014年に提出した博士論文が権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞し、世界5か国で刊行された(邦訳『大洪水の前に』堀ノ内出版)。2020年9月刊の『人新世の「資本論」』(集英社)は50万部のベストセラーになった。
地質学的に見て地球は新たな年代、人新世(ひとしんせい)に突入し、人間たちの活動の痕跡が地球の表面を覆いつくしたという。なかでも飛躍的に増大しているのが温室効果ガスの1つである二酸化炭素で、気候変動を引き起こしている。近代化による経済成長は豊かな生活を約束していたはずだが、逆に人類繁栄の基盤を切り崩しているのが明らかになった。「そんな事態を避けるには、政治家や専門家だけに危機対応を任せていられない。人任せでは超富裕層が優遇されるだけだろう」として、市民が当事者として立ち上がり、気候危機の原因を追究することを斎藤さんは提唱する。
環境危機に向けて提案された施策にも問題や限界があるとして、1つ1つを取り上げて明快に論評している。電気自動車、バイオマス・エネルギーの導入、大気中の二酸化炭素を回収して地中や海に貯留する案などだ。
さらにその根本原因は資本主義にあるというのだ。利潤を増やすための経済成長を止めることができないのが資本主義の本質だが、経済成長しながら二酸化炭素排出量を十分な速さで削減するのはほぼ不可能だという。いずれ地球の表面を徹底的に変えてしまい、人類が生きられない環境になってしまうと警告する。
そして斎藤さんが取り組んできたカール・マルクスの『資本論』以後の未発表論文等に大いなるヒントが盛り込まれているそうだ。世間でマルクス主義といえば、旧ソ連や中国の共産党による一党独裁と生産手段の国有化というイメージが強いが、世界で近年進むマルクス再解釈では、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のことを指す「コモン」という考えが鍵になる。あらゆる物を商品化するアメリカ型市場原理主義でもなく、すべて国有化をめざすソ連型でもない。第3の道として、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、市民たちで民主主義的に管理することをめざす。晩年のマルクスにとって、エコロジー研究と非西欧・前資本主義社会の共同体研究は重大テーマだったのだ。
近年になって日本でも環境危機が叫ばれるようになったが、まだ他人事のように受け取る人が多く、それが資本主義に由来すると言われてもピンと来ないかもしれない。斎藤さんもテレビに出演しても浮いてしまうのではと、ためらったそうだ。今では他の番組にも出演し、環境問題以外でも発信する機会が増えた。
だから忙しくなり過ぎて、専門の研究に時間やエネルギーを集中しにくくなったという。そこで今夏から1年間、ドイツで新しい研究プロジェクトに取り組むことを決断したそうだ。1年後も研究者としての貴重な意見をテレビで披露して欲しい。
山田洋
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