トップページ ≫ 社会 ≫ 全世界における食糧危機 日本は国内農業振興のための政策転換を!
社会
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「加瀬英明の世界が見える窓」より
加瀬英明
日本ではまだ食糧暴動が起こっていない。テレビで食品がいっせいに値上げされていると報じているが、“飽食の時代”を象徴する食べ物番組をあいかわらず放映し、“メタボ症候群”を取りあげている。
このところ小麦、米、トウモロコシをはじめとする穀物や、大豆の国際価格が高騰している。モンゴル共和国、インドネシア、ラオス、フィリピン、中米のハイチ、アフリカのマリ、モザンビーク、モロッコ、カメルーン、象牙海岸、セネガル、ブルキナファソ、エチオピア、ソマリア、マダガスカルをはじめとして20カ国で、食糧暴動が発生している。パキスタンとタイでは食糧倉庫を護るために、軍が出動している。
国連は「ワールド・フード・クライシス(世界食糧危機)のためのタスクフォース(担当チーム)」を新設することを発表した。いったい、アジアや中米、アフリカの貧しい諸国を襲っているような状況が、日本やヨーロッパ、アメリカなどの豊かな先進諸国にも拡がることになるだろうか。
アメリカ、EU(ヨーロッパ共同体諸国)でも、食品価格が軒並みに騰(あが)っている。全世界で同じことが進んでいる。
ヨーロッパではパンの小売価格がこの一年で、数回値上がりした。他の食品もそうだ。国民にとって苛立たしいことだ。それにもかかわらず、日本、アメリカ、EUでは、食糧について危機感がない。レストランや、食堂や、スーパーでは大量の食品が捨てられて、いまだに“飽食の時代”を謳歌している。
国連の世界食糧機構(FAO)によれば、昨夏以来、食品価格は45%上昇した。それ以前の2年間では、37%上がっている。FAOによれば、小麦と米の価格が昨年中に2倍になったが、さらに上昇し続けると予想している。
FAOは少なくても37カ国が深刻な食糧危機に直面しており、食糧不足から国内安定を失いかねないと警告している。このところ国際テロリズムの脅威が唱えられてきたが、食糧危機はそれを大きく上回るものとして恐れられている。
いったい、何がこのような食糧危機をひき起こしたのだろうか。
たしかに異常気象も、一つの要因となっている。主要な穀物生産国であるカナダとオーストラリアにおいて旱魃が発生し、アメリカの穀倉地帯が異常な長雨と冷気に見舞われたことがある。
バイオ燃料が登場した時には、日本でも地球温暖化を防ぐ切り札として、好感をもって迎えられた。トウモロコシを原料とするバイオエタノールの生産のために、アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、東ヨーロッパで、トウモロコシや、大豆、小麦の広大な畑が転用されたことも、原因としてあげられている。
アメリカではバイオ燃料のためのトウモロコシの栽培に、政府補助金が与えられている。そのために、アメリカのトウモロコシ生産の5分の1が、バイオ燃料に振り替えられてしまっている。
環境問題の世界的な権威として知られる、アメリカのアース・ポリシー(地球政策)研究所長のレスター・ブラウン博士によれば、2億5千万人分の食糧に相当する農作物が、バイオ燃料を生産するために転用された。
それでも、FAOは小麦と米の世界生産量は増加して、2.6%伸びており、今年は未曾有の21億6千万トンに達すると予想している。
巨大な人口を擁する中国とインドで生活水準が急速にあがったために、肉類の消費が増大したことも原因とされている。両国の経済発展によって、食糧だけでなく、石油から鉄鉱石、銅、ボーキサイト、希少金属まで国際価格が高騰している。
原油価格が急騰したことも、食糧価格を押しあげている。原油価格は9年前には1バレル当たり10ドルだったのが、本稿を書いている現在、130ドルに迫っている。化学肥料や、殺虫剤が石油からつくられるから、食糧価格を押し上げている。
アメリカの住宅金融であるサブプライム・ローンが破綻したために、世界の投機資金が不動産や、株式から、原材料や、穀物相場などの先物投資へ向かって、“原材料、食糧価格のバブル”をもたらしたことも、大きな要因としてあげられている。
それでも食糧価格の高騰が、豊かな先進国よりも、貧しい諸国を直撃しているのは、どうしてだろうか。
貧困国では、食費が家計に占める比率が高い。日本や、アメリカ、EUでは低所得層をとっても、食費が家計の20%に達しないが、ナイジェリアをとれば70%以上を食糧へ割いている。食糧暴動が発生している国々では、食費が50%以上を占めている。
だが、これらの貧困国では穀類や、大豆の輸入率は低く、国内の零細農家が供給している。だが、もともと農業の生産性が低いところに、化学肥料の価格が急騰したために、農業生産が減少している。生活必需品の値上がりによっていつも苦しむのは、貧困層なのだ。
もっとも、米、小麦、大豆の国際価格が、このところかなりの幅で下落している。タイ米はこの二週間で30%、小麦は三月の最高価から34%、大豆も同じように下げている。投機資金の相当の部分が、農産品から他の商品に向かったことを示している。
それでも、穀類や大豆価格がかなり下がるとしても、中国や、インドをはじめとする諸国の経済発展が続こうから、食糧だけでなく原油の高値も続いてゆくはずである。
穀類や大豆価格が上昇したのには、日本にとって好ましい側面もある。日本だけでなく、これまで農業が国際的な競争力を欠いていた諸国において、農業が力を回復することを促すこととなろう。
日本は世界の主要国の中で、食糧の自給率がもっとも低い。農水省によれば熱量総合食糧自給率が38%、穀物の自給率が27%(ともに平成18年度)でしかない。
もっとも、この摂取カロリー総合自給率が38%というのには、トリック―誤魔化しがある。というのは、この数字には国産の食肉や、卵が含まれている。
牛肉1キロを生産するには、飼料として11キロの穀物を必要とする。日本は牛、豚、鶏を育てる穀物のすべてを輸入に依存しているから、カロリーの自給率はもっと大幅に低下することとなる。
国際市場に食糧が豊富にあるかぎりは、カネさえあれば、海外から買ってくることができるはずだった。
だが、地球は異常気象のサイクルに入っているように思われる。オーストラリアの旱魃は、もう十年も続いている。ミャンマーは5百年に一度という、激しいサイクロンに襲われた。
そのかたわら、中国、インド、ブラジル、南アフリカ共和国などの経済発展はやむことがないだろう。それに加えて、世界人口は年間7千3百万人も増えている。
日本は食糧価格が高騰したのを好機としてとらえて、国内の農業を振興するために、大胆な政策転換を行うべきである。
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