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実在する無名の空手家の活躍を描いた漫画が大ヒット、お陰でその空手家も、強さを実証することなく神格化され、一大流派を築き上げた。1970年代に週刊少年漫画誌で長期連載された『空手バカ一代』とその主人公、極真空手の大山
1990年ごろ、私は大判での再刊行に携った。それ以前に、大山氏について、他流派の人からだけでなく、同氏と袂を分かつことになった高弟からも痛烈な批判を聞いていた。
漫画を読んでみると、大山氏をヒーローに仕立てるためか、不自然なエピソードがいくつもあった。しかし、原作者の梶原一騎氏はすでに亡くなっており、絵とのからみもあって、作品をいじるのは事実上不可能だった。伝記などではなく、これは漫画なんだと、自分の中で割り切ることにした。
刊行前に作品のモデルたる大山氏に挨拶に行った。池袋の極真会館で会った彼は70歳に近く、“牛殺し”と呼ばれたスーパーマン的イメージとは違っていた。芝居がかった言動はあったが、韓国語なまりか独得のイントネーションで語りかけられると、それもご愛嬌に感じられた。気嫌を損ねるのはわかっていたから、漫画のストーリーの信憑性については言い出せなかった。
本が出た後も、この点については気にかかっていた。空手道場に通う若者たちには、『空手バカ一代』を読んだのがきっかけという例が実に多く、漫画のほうが独り歩きしている感じだった。
大山氏の生前から、独立して分派を旗揚げする弟子はいたが、1994年に亡くなると、極真空手本体が分裂、裁判沙汰にまでなった。昨年末には、裁判の当事者だった人物が、企業買収にからむ収入で東京国税局から30億円を追徴課税される事態になった。
先日、書店に行ったら、目立つ所に分厚いハードカバーの本が平積みされていた。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社刊)という仰々しいタイトルに惹かれて手に取ったら、懐かしい固有名詞が並ぶ中に、あの大山倍達の名もあり、彼の話で途中の1章が構成されていた。
不世出の柔道家と言われながら、プロレス界に身を投じ、力道山との世紀の一戦で不本意な敗北を喫した木村政彦の側近(力道山戦後は絶縁)として描かれている。著者の増田俊也氏は、周辺の人物の談話から大山氏の強さを推察しながらも確証がないことを認めている。
この本によれば、総帥没後のゴタゴタで、極真空手神話が吹っ飛んだだけでなく、大山氏自体の評価も一変、「大嘘つきで金の亡者、牛を捻り倒しただけ」とまで言われるようになったそうだ。ネット社会となり、格闘技界全体の情報化が進み、今や大山氏を擁護すると、『空手バカ一代』幻想から脱却できない時代遅れ人間と誹謗されかねないという。
信憑性に疑問があるストーリーを読者に提供することへの私のためらいは、とうに杞憂と化していたようだ。
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