社会
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とっつきにくいが、今の日本の重要なテーマである「税金と財政」について、わかりやすく書かれた本を見つけた。『税金 常識のウソ』(神野直彦・著 文春新書)で、著者は東京大学名誉教授、日本を代表する財政学者だ。タイトルどおりに税金についての常識の誤りを実証していく。
数か月前に刊行され、最近の日本や世界で浮上した問題にも触れていて、冒頭はギリシャの財政危機だ。ユーロ圏は中央政府なき地方自治体の集合体のようになっているので、統一通貨のもとではドイツのような経済力のある国に富が集中してしまうが、ユーロ圏全体としての徴税権がなく、ギリシャなどの弱い国に財政資金を再分配する仕組みがないのだ。「ユーロ圏は1つだ」と主張するのなら、財政統合に進まざるをえない。
現在の日本では、地方交付税つまり財政調整制度の廃止が声高に叫ばれている。それぞれの地方自治体が経済的自立を果たすには、独自の通貨発行権を認めざるをえない。すると、たとえば北海道の通過は極めて低い水準になるが、生産性の高い北海道の農業は国際競争力で断然有利になるという。
日本もギリシャのようになるのではという不安の理由は財政赤字にある。財政赤字とは国家の活動に必要な経費が税金だけでは足りず、借り入れ(国債)で調達している状態だ。日本の財政法第4条でこれを禁止しているが、同条の「但し書き」で公共事業費や出資金、貸付金の財源については国会の議決を経て公債を発行してよいとされている(これが建設国債)。経常的支出については公債発行(赤字国債)を認めていないのだが、実際は特例法を毎年制定することで発行を続けている。こうして国債累積額は世界でダントツとなり、「公債に抱かれた財政」になってしまった。
日本では伝統的に租税が忌み嫌われている。「お上への貢ぎ物」という意識が国民に残っているからで、税金を上げるよりも国債に頼るほうに傾いてしまう。また、「税負担が小さくなると民間活力が高まり、経済成長を達成する」という主張がまかり通っていたが、これは根拠のない説だと著者は反論する。実際、第2次大戦後の先進諸国では、租税負担率が高いほうが経済成長するとされていた。所得税や法人税の税率が高いと、財政による所得再分配機能が大きくなり、社会は安定し、労働意欲も高まるとされたのだ。
ただ、1980年代に入ると租税負担率の高い北欧諸国は低い経済成長に悩み、米国や日本など負担率の低い国が高い成長を謳歌するようになった。これで「小さな政府」を唱える新自由主義が説得力をもって登場し、英国のサッチャーに続いて米国のレーガン、日本の中曽根と、新自由主義政権が誕生した。
租税負担が低い故に成功したと信じた日本は、1990年代にも高額所得者と法人所得に焦点をしぼって減税を連発、それによる収入減は消費税で補おうとした。租税負担を豊かな階層から貧しい階層へとシフトする意図があった。これで経済成長が達成できれば、その恩恵は貧しい人々にも及ぶとされたのだ。
しかし、1990年代の日本経済は停滞した。逆に租税負担が高い北欧諸国が再び経済成長を取り戻し、この流れは21世紀に入っても続いている。
「税金と財政」については様々な議論がされているが、断片的にとらえていても本質はわかりにくい。その分野の素人にも体系的な理解が得られる好著と言えよう。
(山田 洋)
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