トップページ ≫ 社会 ≫ マイナー変じてメジャーに、急成長の異色出版社
社会
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今年上半期に出版された書籍の実売部数による出版社ランキングをオリコンが発表した。1位講談社、2位集英社、3位小学館、以下5位までは老舗各社が前年同期と同じ順位で続くが、6位には文藝春秋などを抜いて宝島社が入って注目を集めた。
1971年にJICC出版局としてスタートした同社は、74年に晶文社から版権を譲り受けた月刊誌『宝島』(旧・ワンダーランド)を復刊、サブカルチャー雑誌として一部の若者たちから強い支持を得る。次第に業容拡大を進めるが、売り上げが大きく伸び始めたのは出版物を女性向けにシフトしてからだ。
豪華な付録を付けた月刊誌『sweet』は2010年2月号で発行部数100万超えを達成した。漫画誌以外で100万部というのは今や奇跡に近い。『sweet』の勢いに乗り、その上下世代を対象にした姉妹誌も続々刊行され、さらには『ブランドムック』と呼ばれるブランド品が付録のムック本も大成功。今年は実用書の好調も売り上げ増に寄与したという。
この宝島社の創業者、蓮見清一氏は71歳になる今も社長を務めている。私は蓮見氏が早稲田大学の学生時代に謦咳(けいがい)に接したことがある。クラスに引き受け手がいなくて仕方なく学部自治会委員になった私が総会に出席すると、各セクトの委員が入り乱れ、会場は騒然としていた。その中で野次と怒号の集中砲火を浴びながらも、青白い顔で眼光鋭く一点を見据え、昂然と語り続ける少数派の委員がいる。自治会に出席するたびにその人の長めの発言を聞かされ、「マイノリティーの意地」みたいなものを感じた。強い印象とともに、蓮見清一という発言者の名前も私の記憶に残った。
その後、大学と自治会は未曾有の大闘争に突入、私の委員としての任期も終わったが、たまたま私の友人が蓮見氏と親しかったので彼の人となりを聞くことができた。春日部高校出身だと知った時には同郷の親近感を持った。活動家として第一線にいた彼も、ある時期、セクトのカリスマ指導者に強く反発し、ついには活動から離れたとも聞いた。
その後、私が途中入社した出版社で週刊誌の編集部に配属されたが、少し前まで蓮見氏が契約記者として在籍していたというではないか。後に宝島社で彼の片腕的存在になる石井慎二氏(故人)は記者として残っていた。
間もなく宝島社を興し、独自の出版活動を続けていたものの、マイナーな存在には違いなかった。映画評論家で米国発のコラム(『週刊文春』連載)が人気の町山智浩氏は以前、宝島社の名物編集者だった。彼の学生時代、私は仕事を手伝ってもらったが、1980年代半ば、彼が宝島社入社が決まった際には、周りから「宝島でいいの?」という声さえあった。町山氏にしても、ここ数年の会社の大躍進は想像できただろうか。
まさに出版界の風雲児(爺?)とも言える蓮見社長も、マスコミにはあまり顔を出していない。3年前の10月、テレビ東京の『カンブリア宮殿』には珍しくもご本人が登場し、作家の村上龍氏のインタビューを受けていた。村上氏は「一貫して権威への抵抗」と蓮見評を語っていたが、出版界の常識や既成概念を引っ繰り返す発想はすごい。
出版界では、ベストセラーを出すと「カリスマ編集者」として目立ちたがる面々が少なくない。かつてカリスマの御託宣に疑念を抱いた蓮見氏だけに、そんな真似だけはしないだろう。
(山田 洋)
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