トップページ ≫ 社会 ≫ 『青春と白秋』 二つのオリンピック
社会
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時事川柳が「五輪までリニア迄はと寿命延び」と詠っていたが、東京オリンピックの招致は我が国の経済に大きな刺激を与えているようだ。例えば、計画はあったものの、実現は困難だろうと思われていた成田・羽田の両空港から東京駅までを直接鉄道で結ぶ計画が一気に実現しそうな気配を見せるし、関連するインフラの整備を中心にして建設業界を先頭に景気の良い話が、あちらこちらで繰り広げられている。ここの所、韓国や中国の激しい追い上げの中で日本経済は地盤沈下になかなか歯止めがかけられなかったが、この追い風に乗って長年の沈滞ムードを一掃するような元気さである。しかも、経済活動だけに止まらず、国民ひとりひとりの心に様々なインパクトを与え、日本全体が活気付いているのだ。言わば、日本の社会が新たな生きがいを見つけて、これを目標にして励むと云う機運が予想以上の速さで拡がっているのである。歴史をひも解くまでもなく、どんな時代であって国家と国民の意思が統一され団結した時には、とてつもないエネルギーが生じているのである。オリンピック招致の是非を云々していた頃には、まったく予測できなかった現象である。一夜明けたら日本社会が生まれ変わっていた、まあ、こんな所だろう。これを活かせるか否かも、また、われわれ自体なのだが、オリンピックを二度も目の当たりで楽しめる所謂、団塊の世代にとっては、懐かしい若かりし頃の思い出と共に人生の最終盤に再びオリンピックの感動を味わえる喜びをしみじみと実感しているのではないだろうか。
思えば、あれから半世紀近くたっているのだが、64東京オリンピック当時の記憶は今でも鮮明である。昨日の事のように覚えている。それだけ印象深かったのである。開会式の前夜祭として友人達と野外で大ダンスパーティを開催したのだが、時ならぬ豪雨に阻まれ、敢え無く中止にした事があったので、翌日の見事に晴れ渡った空の下で行われた開会式は強く記憶に残っている。自然現象の偶然ではあるが、前夜の豪雨を考えると、まさに神がかり的な開会式であった。未曾有の金メダルラッシュに日本中が沸いたが、一番の感銘は男子マラソンであった。甲州街道を哲学者のようなアベベ選手が駆け抜けたが、表情ひとつ変えずに、ただひたすらゴールを目指して走る姿は神々しかった事を覚えている。それに続いた円谷幸吉選手は競技場で英国のヒートリー選手に抜かれてしまったので素直に喜べず、何か釈然としない気持ちで拍手したのを覚えている。銅メダルを授与され、初めて大変な偉業に気づく始末だった。首をかしげ、いかにも苦しそうな表情は、責任の重圧に耐え、厳しい練習に耐え、体力の限界に耐えて、さらに勇気を振り絞って走った証でもあったのだ。まさに、東京オリンピックのフィナーレを飾る快挙であった。重い荷物を一人で背負い、それこそ命がけで走った円谷選手は多くの拍手を浴びていたが、何故か私は心の底からのねぎらいと感謝の拍手を送らなかったのを覚えていて、それを心から悔いている。メダルの色にこだわる必要なんて何にも無かった筈なのに、若さなるが故のエゴで素直に祝福できなかったのである。この時のお粗末な自分勝手を残念として、今日まで持ち越してしまっている。
しかし、再びオリンピックが東京で開かれる。今度はパラリンピックも共催されるのだ。招致活動の立役者である佐藤真海選手も出場出来るかも知れない。そうしたら今度こそ、心からの拍手を送ろうと思う。メダルなんか無くてもいい、全力で競う姿がアスリートのメッセージなのだから。青春時代に残したままになっているちょっと恥ずかしい想いを、この白秋オリンピックで取り返せるようにしよう。そうすりゃ人生なかなか捨てたもんじゃないと思えるだろう。
(仁 清)
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