トップページ ≫ 社会 ≫ 保全から利用へ 林業政策転換の時
社会
特に埼玉県、さいたま市の政治、経済などはじめ社会全般の出来事を迅速かつ分かりやすく提供。
森林は、二酸化炭素の吸収・貯蔵機能や水源機能等公益的な機能を持っている。きれいな空気、豊かな水は森林によってもたらされる。我が国は、歴史的建造物からも分かるように「木の文化」である。先人は、建築材となる杉・ヒノキを植え、育て、伐採し、生活の糧とした。伐採した後には、また木が植えられた。このような人工林が森林面積全体に占める割合は全世界では5%なのに対し、我が国では40%にもなる。また所有の形態としては、国や自治体ではなく、個人が管理する私有林が50%を超えている。我が国の森林の公益機能は、林業という産業によって支えられてきた。
しかしながら、1980年代後半の輸入制限緩和による海外からの木材の急増と価格の暴落による採算性の悪化から1990年代に入ると間伐等必要な手入れが行き届かない森林が出てきた。林業が森林の公益機能までも支えることが困難となってしまったのだ。行政は、2000年代に入ると森林整備のための補助金や税の減免で支援を行うようになった。しかしながら、当面必要な整備を税金でしのぐにしても財源は無尽蔵ではない。コンクリートの社会から木の社会へと転換し、木を植えて、育て、伐採し、使用するというサイクルの中で林業は再び健全に機能しなくてはならない。
林野庁では、路網整備や施設の集約化を行って生産コストを下げ、また同時に需要を喚起することで収益が上がるようにし、林業が事業として魅力あるものになることを目指す森林・林業再生プランを2009年に立案し、発表した。翌年には、行政が率先して公共建築物の木造化を推進するよう「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行した。
埼玉県でも10月31日「木造公共建築物整備の手引き」を作成し、公表した。これは、公共建築物整備の際に、木のよさや県産木材を使用する意義、使用する場合の手法や木材調達などの留意点などを担当者にもわかりやすい「手引」として取りまとめることで公共建築物の木造化・木質化を推進し、県産木材の利用拡大を図るためのものである。
埼玉県の森林面積は122.118haで全県面積の約32%を占める。人工林の比率は全国平均の41%に対して49%と高く、このことは林業が盛んであったことを表している。特に江戸時代から西川材の産地として知られる飯能市の人工林率は75%以上になる。木材の需要が増えることで、収益が上がるようになり、林業の再生が実現すれば、地域は本来の魅力・特色を取り戻す。さらには、雇用が増加し、商業、建設等他産業も活気づく。
だが、そこに至るまでの道程は厳しいことも事実だ。前述の飯能市にしてもいまや市民の多くは都心や近郊に通勤するサラリーマンである。林業が特に盛んだった吾野地域では、人口が減少しその中で高齢化が進み過疎の問題も出ている。林業の再建を地域のみに託すことは、すでに酷な状況である。地域は必要な人員、企画、販売等のノウハウについて市外の力も導入し、互いに協力する必要がある。森林ボランティアや企業・団体が社会貢献の一環として労働力を提供する「企業・団体の森」を積極的に受け入れ、施主、建設会社、工務店、建築士に対しては、地元材を使って頂くことをより一層PRする必要があるだろう。そのためには、森林を保護する必要性、木材や木質建物の利点について論理的な説明も必要である。学校や研究機関との連携が必要だ。行政が政策転換し、需要喚起に動き始めた今、地域、産、学、官が連携して林業の再生に取り組むことを期待したい。
(三津橋 真也)
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