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社会
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11月16日、17日の両日、彩の国さいたま芸術劇場にて「黒浜沼の河童」が上演された。
黒浜沼は、埼玉県蓮田市黒浜に位置する沼。豊かな自然環境が残り、釣り・バードウォッチングのポイントとしても知られている。その黒浜沼を舞台とした音楽と朗読劇。長大な時間を生きる河童の与太郎を主人公に、自然に恵まれ、人と人がつながった美しい世界とその儚さ。儚いからこその尊さを見事に表現した。また、「黒浜沼の河童」を上演する会の代表であり、主人公を演じた山口氏を始め合唱や音楽演奏が蓮田を愛する多くの市民、出身者によって行われたことも意義深い。
劇についてであるが、まず朗読を担当された与太郎役の山口氏、あかね役の佐藤氏の演技が素晴らしかった。山口氏は、繊細でやさしいが時に強い決意を示す与太郎を熱演。佐藤氏は、与太郎の妻となるかわいらしいメスの河童あかねを演じる他に、河童族の長老や兄弟河童、村人の声も担当。見事に演じ分けた。コーラスは、男女2人のテナー、メゾソプラノが与太郎、あかねの心情を歌い、黒浜沼の河童合唱隊が河童族、村人、ストーリーを歌った。楽器の編成が面白く、三味線、琴、和太鼓の和楽器とマリンバ、フルート、バイオリン、ピアノの洋楽器という組み合わせ。これが河童と人間という異質な者同士の共生という世界を上手に表現しつつ見事な調和を見せている。館林氏の指揮の下、コーラス、楽器は、情熱的に、時に静かに悲しみを表現。見事に劇を演出した。
原作者の大畑善夫も、やはり蓮田市在住で、普段は大畑電研株式会社の代表を務めているが、若いころより詩の創作活動を行っており、弊社クオリティ埼玉の有力なスタッフでもある。大畑はこの作品で河童の話を書きながら人間を書いている。冒頭の祭での河童同士の争い。河童は人間や馬に危害を加えたことを誇るが、それは戦闘集団である荒川河童の中での価値に過ぎない。そこを離れれば、美しいやさしい世界もある。目の前の競争に夢中になって、美しい世界やさしい世界があることを我々は忘れがちである。雨降らしの段は、努力ということについて。必死の努力、信念が奇跡を起こす。奇跡は努力しない者の前には起こらない。子どもとの別離。子どもの幸せを思う気持ちは人間も河童も同じ。子どもが幸せに生きているとしても会うこともかなわない違う世界で生きていることは、親にとってどんなに辛いことであろうか。「俺はなんで河童なんだろう。」という与太郎の自問は、人間という存在について。人は他人との関係があって初めて人たり得る。それにも関わらず、信じていた人たちから裏切られるということは自分の存在が揺らぐということだ。与太郎の傍にあかねが寄り添うことで、与太郎は与太郎たり得る。「私が河童なのはあなたに出会うためなの」というあかねの言葉で与太郎はどれほど救われたことだろうか。最後に環境問題と社会の変化。人と自然が助け合い共生していた時代は終わった。人と人との関係も希薄になれば、河童は生きてはいけない。そんな河童に大畑は、自身を重ねているのだろうか。いや、蓮田には今も美しい自然がある。それを愛し、協力して素晴らしい舞台を作り上げた人たちがいる。今も黒浜沼には河童が居て、人懐っこい笑顔を向けてくれることを筆者は信じている。
<あらすじ>
江戸時代、荒川には荒川族という河童が住んでいた。戦闘集団である荒川族では、力が強いこと、争いで勝つことが大事であり、長老河童の長男の与太郎は、何もできないと笑われて荒川を追われる。そんな与太郎を追って美しい河童の娘あかねがついてくる。与太郎のやさしいところ、笛が上手なことが好きだと言うのだ。二人は夫婦になり、村人の野良仕事を手伝ったりして喜ばれる。干ばつの時には、与太郎は命がけで雨降らしの術をしてより一層村人の信頼を得る。あかねを取り戻そうと荒川族が襲撃した際には水神様が2人を守る。やがて、2人はトコと言う可愛い子供を授かるが子どもの幸せを願って水神様に人間の子どもにしてもらう。子どものためであったが、2人には辛いことだった。さらに、悲しい出来事は続き、庄屋の娘を溺れさせたと誤解を受けて村人に襲われるという出来事があった。与太郎の心は傷つき、自分はなぜ河童として生まれてきたのかと悩む。あかねに「自分が河童なのはあなたに出会うためなの」と言われて救われる。やがて月日が流れ、農業は機械化され、河童の手助けはいらなくなり人々は河童を忘れる。沼も汚れてしまい蓮の花や魚もいなくなってしまった。2人は別世界のようだと嘆き、消えていく。
(進藤 尊徳)
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