社会
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ある日突然訪れる親の介護。さいたま市南区根岸、さいたま市文化センター前に平成16年に開業した街の手作りパン屋さん「ぐうちょきパン」が今月11月23日に閉店した。美味しい手作りパンとして近隣に親しまれてお店もようやく軌道に乗りだした矢先であった。
働き盛りの身近な方にそれはやって来た。故郷の父親が他界し、信州飯田に一人暮らしとなった93歳の母親と一緒に暮らすため、お店を閉店することとなった。仕事と介護の両立は厳しい。ましてや遠方であり、仕事を退くことを余儀なくされた。聞けば母親は現在元気であるが、高齢であり心配であるとの事。息子が母親の介護をするのは当然のことなのだろう。
平成12年4月に介護保険制度が施行されて10年を超えた。高齢者を家族などの個人でなく社会全体で支えようという理念に基づき誕生した制度だ。満40歳以上の方が被保険者となる。65歳以上の方を第1号被保険者(65歳以上で原因にかかわらず要支援要介護の方)、40歳から64歳の方を第2号被保険者(16種類の特定疾病が原因で要支援要介護の方)としている。介護保険に加入しているからと言ってすぐにサービスが受けられるわけではない。まずは介護を必要としているかという要介護認定の申請が必要で、認定調査員による聞き取り調査、意思意見書とコンピュータによる一次判定、次いで介護認定調査会による二次判定を経て認定・結果通知となる。要介護1から5、要支援1・2、非該当と判定され、要介護・要支援の場合にサービスが受けられる仕組みなのである。
ようやく認定を受け介護支援専門員(ケアマネージャー)による介護及び介護予防のサービス利用計画に従ったサービスを受けられることになる。介護保険の利用にあたっては被保険者にとって少し分かりづらい仕組みだ。介護サービスの利用に当ってもそのサービスの量や内容なども定期的に見直しがなされるなど、利用者本人が認知症等で理解しづらい部分が起きるなど複雑な一面もある。
内閣府によると介護保険制度が平成12年4月に施行された時は利用者の数は149万人、介護給付金は2,190億円であったが、平成23年4月には利用者417万人、介護給付金5,435億円と推移してきている。また介護サービス自体そのサービス内容も多様化してきており、介護サービスを行っている事業者の質やモラルについても新たな社会問題となっている。
筆者はかつて老人福祉施設に勤務していた経験を持つ。そこでその経営者の信じられない言葉を耳にした。「私たちはおむつを替えてナンボの世界。送迎担当者は休みがちな利用者を一人でも多く連れてくるように」。朝礼では前日の利用者数の報告がなされ、休んだ利用者の勧誘を促した。さらには職員の会話。「あの利用者さん、介護度が3から2になってしまって」。機能訓練等によって利用者の介護度が低くなるのは、利用者本人の身体能力の改善が見られ喜ばしいことであるのだが、「介護度が低くなって施設の利用回数が減ってしまうので困るよ」。ヘルパーの人件費等、確かに経営であるから介護事業も売り上げ大事であろう。利用者家族側にも高齢者を一人で家に残すわけにもいかないという事情もあり、事業者の利益と利用者家族の要望が一致することもわかる。けれども介護には愛情と思いやりを決して欠いてはいけない。「ぐうちょきパン」の店主が母親を思いやり一緒に暮らすことを選んだように。
急激に進む高齢化社会。介護保険の利用者、その家族、介護施設で働く担当者の経験、体験をもっと深く取り入れた行政の光が強く当たることを望みたい。
介護問題は「利用者のぐー」と「利用者家族のちょき」と「介護事業者のぱー」のそれぞれの思惑だけで進めてはならない。お互いの言い分を尊重して「ぐーと、ちょきと、ぱーのあいこ」で進めたい。
介護問題の対策には手作りパンのように一人ひとりに真心込めた対応が望まれる。
(白坂 健生)
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