トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 1票の格差是正はどこまで追求すべきか
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昨年の衆院選からおよそ1年、今年の参院選から半年弱が過ぎようとしているが、この2つの国政選挙に関しての1票の格差について司法判断が出始めている。11月20日には最高裁が、昨年の衆院選については「違憲状態」(選挙そのものは有効)という判断で、今年の参院選については一部の高裁で「違憲」(選挙結果は無効)という判決もでた。
1人1票が要請される根拠は、憲法14条の法の下の平等という原則に加え、56条2項に書いてある「両院の議事は出席議員の過半数でこれを決する」という条文である。これが、国民の国会を通じた議決が1人1票を反映した構成になっていないと、過半数というのが本当に国民の意思を反映した結果にならないという理屈だ。
選挙結果が無効になる「違憲」と異なり、「違憲状態」は適切な是正措置を行うことを求められる段階と理解していい。両院とも是正の努力をしているものの、衆院は「1人別枠方式」という各都道府県にまず1議席を配分する方式をとっていること、そして参院は都道府県ごとに選挙区を設定していることが要因となって1人1票の実現が進まない。特に参院は4.77倍の格差があるものの、1人あたりの有権者最小の鳥取県の議席をこれ以上減らすこともできず、周辺県との選挙区統合しか解消の方法はない。参院選の選挙区選挙では5人区の東京都では得票率10%前後で候補者が当選してしまうので必ずしも民意を反映したといる当選者ばかりでないことは読者も感じることではないか。そういう現実をみると、都道府県ごとに議席を割り振る選挙制度が妥当か、疑問が湧くところだ。
結局のところ衆院も参院も現行の選挙制度は都道府県という単位に縛られている。米国の上院のように参院は都道府県ごとに同じ定数にすればという意見もあるが、米国は連邦制であり、さらに憲法で規定されているからできることだ。日本国憲法では、地方自治の章に自治の原則が記されているが、「地方公共団体」という名称だけで都道府県・市町村などの定義はされておらず、また「地方公共団体」と国との関係は書かれていない。ここが我が国憲法における統治機構の規定の大きな瑕疵だ。たしかに法律家や学者を中心とした1人1票原則を主張する人たちの主張は現行憲法をそのまま読むと論理的に正しい。しかし、現実的に鳥取県から1名代議士を選出することたとえば世田谷区から2名を選出することが本当に平等か、憲法16条の定められている請願権の観点からも違和感を感じる。請願権とは、統治機構に対して国民が請願を行う権利で、参政権的役割を持っていると考えられている。国会法79条には国会に請願するときは議員の紹介により請願書を提出しなければならない、と記されているので1人1票を追求するあまりに、大都市集中になるのはいかがなものかと思う。
本質的にこの問題を解決するためには、国の統治機構の中で地方政府としての自治体の位置づけをおこなうことが不可欠であろう。その中で「1人別枠方式」と参院の選挙区の問題も解決されるだろう。これは一朝一夕でできることではないので、その時間的な猶予を格差是正より優先すべきではないだろうか。
(小林 司)
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