トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 「交通権」から考える岩槻延伸計画
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私たちは普段公共交通機関を使って移動している。これは一消費者として交通事業者からサービスを受けている経済行為であろうか、それとも一国民として生きるために必要な権利を行使しているのであろうか。12月4日に施行された交通政策基本法は、交通が私たちの生活の基盤であることを認めることになった画期的な法律である。つまり「交通権」という基本的人権を認めることになった。公共交通機関を使うことが経済行為から権利の行使になった瞬間である。この背景には、少子高齢化に伴う地方の人口減によってローカル鉄道線や路線バスが廃止され、高齢者や社会的弱者が孤立するという課題がある。
人口が増加していた時代でも、交通事業者、特に鉄道会社は初期投資や固定費の大きさから、大きく利益を出せるビジネスではなかった。その中で民間鉄道会社である私鉄は商業施設の併設や沿線エリアの住宅開発、大学や娯楽施設の誘致ということを組み合わせて利益を出してきた。「私鉄モデル」というビジネスモデルを育ててきた。阪急の小林一三、東急の五島慶太などが作り上げた世界的にみても独特なモデルである。いまや、この「私鉄モデル」が海を越えてベトナムなどの新興国に引き継がれようとしている。しかし、首都圏においても人口の都心回帰がすすんでいる現在、「私鉄モデル」で公共交通を維持し続けるのは難しい。この法律は、マイカーではなく公共交通機関を使って日常生活をおくれるようにするのは国と自治体の責務だと言っている。
欧米の例を挙げると、仏では1982年に国内交通基本法が制定されて交通権が明文化されている。わが国同様、仏でも1970年代に国鉄の経営危機が起こり、それがきっかけで効率性を重視しながらも公共交通に対して公の負担を認めることになった。一方、わが国の国鉄赤字の問題は、民営化という名にもと「私鉄モデル」を取り入れることによって解決を図ったということが、対称的で興味深い。欧州の都市ではLRTという低床式の次世代型路面電車システムが街中を走り、洗練された都市景観を彩っているが、これも交通事業単体で黒字になっているわけではない。公費負担があって初めて成り立っている。しかし、すべて公営では経営の規律が働かないので、「上下分離方式」という公設民営によって運営されている。「上下分離方式」とは、下部(線路の建設や維持などのインフラ)の管理と上部(鉄道の運行業務と経営)を行う組織を分離し、下部を自治体が、そして上部を第三セクターも含む民間が行い、それぞれの会計を独立させる方式である。新聞記事によると、わが国の地方鉄道でこの方式をとりいれているのは現在3例ほどだそうだ。
埼玉県、さいたま市においては岩槻延伸を控えている埼玉高速鉄道は、この上下分離方式を検討するべきではないだろうか。埼玉高速鉄道が国内でも高額の初乗り料金を採用せざるを得ないのはインフラ部分の償却も会計に含まれているからで、インフラ部分を別会計にする(オフバランス)ことによって、利用者を増やして売上をあげるという目的に専念でき、その観点から料金を設定できる。公共交通の使命は国民の日常活動をふくめた経済活動へ積極的に参画できるための手段であるので、県や市は同時にこの埼玉高速鉄道の沿線に病院や公共施設、商業施設を誘導し、市街地としての機能を集約する政策をとることが欠かせないと考える。
(小林 司)
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