社会
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「日本社会の採点帳」より
外交評論家 加瀬英明
ブッシュ大統領が六月二十六日に北朝鮮に対する「テロ支援国家」指定の解除を行うように、議会に要請したことを発表した。
ブッシュ大統領は洞爺湖で福田首相とともに行った共同記者会見でも、北朝鮮が核開発を放棄し、これまでの核開発計画について申告するのを受けて、「テロ支援国家」指定を解除するものの、日本国民の拉致事件について「忘れない」と述べた。
福田首相はこの共同会見で、北朝鮮の核兵器開発と、日本国民の拉致問題を切り離すことに合意したと、表明した。
福田首相は日本国民を裏切った。国家は国土と国民から成り立っている。どちらが侵害されてもならない。独立国家として存立することを放棄したことを意味している。
国民を守ることこそ、政府に与えられたもっとも重い責任である。国家意識を欠いては、首相として資格がない。それよりも、これでは日本に国家の資格があるまい。
日本の歴代の首相は拉致問題について、拉致被害者を「救出する」と一度も言ったことがない。北朝鮮と「話し合って」解決すると、言ってきた。腰が抜けている。
私は北朝鮮に核開発を放棄させるために、六カ国協議が始まったときから、絶対に成功しないと論じてきた。北朝鮮の本質を知っていれば、北朝鮮が核兵器を放棄することは、西から太陽が昇るようなことだ。
北朝鮮は核兵器なしには経済が破綻して、誰も見向きもしないみすぼらしい小国でしかない。アメリカをはじめとする諸国が北朝鮮と対等になって話し合うのは、北朝鮮の手に核があるからだ。
北朝鮮はこれまで核開発を使って、アメリカをはじめとする諸国から援助を繰り返し引き出してきた。
北朝鮮がアメリカを脅すために核兵器開発をはじめて用いたのは、一九九三年のことだった。北朝鮮がヨンピョンの原子炉の燃料棒から、大量のプルトニウムを抽出した証拠を、国際原子力機関(IAEA)が握った。アメリカが周辺の施設に査察を受け入れるように迫ると、北朝鮮は猛々しく戦争熱を煽って、核拡散防止条約から脱退することを宣言した。
翌年、クリントン政権は宥和外交に切り替え、北朝鮮がヨンピョンの原子炉の運転を停止することと交換して、九五年から毎年五十万トンの重油を無償で供給することになった。
アメリカはその三年後に、北朝鮮がクムチャンリの山中の洞窟に核施設と信じられる地下施設を建設していたのに、査察を受け入れるように求めた。長時間の交渉の末に、アメリカの専門家が地下施設を訪れたが、も抜けの殻で、壁に高圧線を引いた痕跡があった。アメリカは北朝鮮に代償として、穀物五十万トンの援助を行った。
北朝鮮は二○○二年十月に米朝会談の場で、核兵器開発を中断したことがないことを認めた。翌年から北朝鮮に核兵器開発を放棄させるために、六カ国協議が始まった。
北朝鮮は二○○五年九月に六カ国協議の場で、「すべての核兵器および核計画を放棄」することを確約したが、その十三ヵ月後に核実験を強行した。
北朝鮮は六カ国協議の場で核を放棄することについて討議するかたわらで、今年六月に朝鮮人民軍報道官が「わが軍は核抑止力を放棄して、徒手空拳のまま情勢を傍観しない」と述べた。
北朝鮮は金日成主席が建国して以来、自力で経済を建設するという、「主体思想(チュチェササン)」を看板として掲げてきた。
ところが、北朝鮮はソ連圏が存続したあいだは、ソ連や東欧諸国からの援助に依存してきた。そのために「主体的な」努力をすることが、まったくなかった。
ソ連が解体してから、ソ連時代の多くの政府文書が公開された。ソ連は東西間のデタントを対外方針としたから、北朝鮮がアメリカを挑発して、朝鮮戦争が再発するのを恐れた。これらの記録は、金日成を宥めるために不本意だったが、援助し続けなければならなかったことを示している。
北朝鮮はソ連が崩壊したために、資本主義国の援助に乗り換えた。北朝鮮の政府機関紙『民主朝鮮(ミンチュチョスン)』が、「軍事力は国家の政治独立と主体経済を保障する(略)われらの銃口が威力を持つ時のみ、繁栄することができる」(社説、九八年十月)と説いたが、恐喝が国家の生業となってきたのだ。
たかりの国家なのだ。金日成は満州の匪賊だったが、関東軍の討伐に追われてシベリア沿海州に逃げ込み、朝鮮人特殊部隊の将校となった。そこで北朝鮮の首領となってからも、山賊の発想によって国を経営してきた。建国以来の体質である。
ところが、日本では多くの学者や文化人が、愚かにもついこの間まで「主体思想」を称えて崇めていたものだった。
今回、北朝鮮が各施設を無力化し、核計画について申告を行った見返りに、重油百万トンを供与することになった。北朝鮮はヨンピョンの原子炉の冷却塔を、海外マスコミのカメラの前で派手に爆破したが、どっちみち老朽化した施設だった。
申告は作文したもので、プルトニウムの抽出量を誤魔化していようし、ウラン濃縮にも、保有しているはずの核爆弾にも、まったく触れていない。北朝鮮全国にわたる査察と検証を行えないから、申告は全核施設と核計画を含んでいない。
アメリカがテロ支援国家指定を解除し、対敵国通商法の適用を外した後に、検証作業に入ることになっているが、北朝鮮は哄笑しながら核兵器開発を続けよう。こんなことでは、アメリカはテロ支援国家指定を解除することはできまい。
それにしても、日本はアメリカがテロ支援国家指定を解除するのであれば、日本が六カ国協議から脱退せざるを得ないと伝えるべきだった。そうすれば、アメリカはテロ支援国家指定を解除を発表しなかっただろう。アメリカが応ぜず、日米関係に亀裂を生じたとしても、日本の自主国防力の整備を促すことになったから有益であった。
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