トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 戸田で始まる「ガバメント2.0」~スマホで市民パワーを活かせ
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戸田市はスマートフォンを活用した、市民と行政の間で情報共有ができるアプリケーションを開発する計画を発表した。10月から運用を開始する予定だ。また、開発段階から市民の声もとりいれる。サービスのイメージとしては、道路の壊れている場所や不審者をみつけた市民がスマートフォンのアプリ上の地図から投稿し、他の市民からも情報やコメントがはいるというものだ。埼玉県では初の試みである。
このような情報システムによって市民が行政に参加する動きを「ガバメント2.0」と呼ぶ。インターネットによる社会の変化を世界に提言しているティム・オライリーという人が提唱した概念だ。米国では2年ほど前から市民に政策決定や公共サービス、まちづくりに参加してもらおうという試みがスタートしている。主なものとしてハワイのホノルル・アンサーズ(HONOLULU ANSWERS)、フィラデルフィアのテキシチズン(Textizen)、フィリー311(Philly311)の3つが挙げられる。
(左から ホノルル・アンサース テキシチズン フィリー311)
「ホノルル・アンサーズ」は、市民からホノルル市によせられた質問に対して、行政がわかりやすく迅速に回答するサービスで、市とコミュニティを結ぶ役割を果たす。「テキシチズン」は街角のあちこちやバス停に掲げられた市の意思決定に関わる質問について、選択肢から選んで、ショートメッセージで回答を送信する仕組みだ。「買い物にこの路線を利用しますか?」「自転車の利用を増やすにはどうしたらいいですか?」といった行政からの質問がいたるところに掲示され、それを見た市民は自分の答えを送信する。最後のフィリー311は、今回の戸田市のモデルになっているもので、市民からの要望や苦情を24時間受け付けるアプリだ。道路や公共施設の破損、ごみの不法投棄などの情報が位置情報とともに写真付きで送られてくる。国内でも「FixMyStreet Japan」(フィックス・マイ・ストリート)という市民が地域の問題や課題を行政にレポートする仕組みを導入している自治体も出始めている。
これらの仕組みはコールセンターなどの費用の削減やタウンミーティングを開くコストを減らせるという直接的な効果がある。また24時間対応が可能になり、たらいまわしや迅速な対応が期待できるなど、公共サービスの質向上も期待できるわけだ。しかし、「ガバナンス2.0」というからには、単なる公共サービスの費用対効果があがるということにとどまらず、いままでの1.0から大きく異なる点があるはずだ。それは、公共サービスというものが税金の対価として受けるものから、公共サービスに市民自らが参加していくことになるということだ。
戸田で検討されている地域情報を共有するアプリについても、第一のアプリ制作段階から市民が参加し、第二段階の情報提供でも市民が参加する。さらにその先ではアプリを通じて上がってきた地域の課題や問題を解決する段階で、市民の参加が期待される。具体的な事例はこれから生まれてくるであろうが、災害時の物資不足を自治体間の連携で解決する、また高齢者の見守りや救急時の対応そして街の破損部分の修復など考えられる。このような活動の延長上に民間から新たな公共的なサービスが起業されるということも近い将来起こるのではないか。
デジタルが民主主義を加速させる。「ガバナンス2.0」によって、「私たちの街」という意識が抽象的なものでなく具体的な行動になっていくのだ。埼玉県では戸田市が先鞭をきったわけだが、すべての市町村がそれぞれ同じようなものを作るのでは無駄も多いのではなかろうか。たとえば、埼玉県として各市町村が活用できるようなプラットフォームを提供したらどうだろう。そうすれば、各自治体も無駄なお金を使わずに市民にアプリを通じた行政参加の機会を提供できるようになるだろう。
(小林 司)
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