トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 大雪対応にみた新しい行政の息吹
社会 …社説
前回の「主筆のインク」では戸田市における「ガバメント2.0」(情報システムを通じて市民が行政に参画する新しい考え方)の取り組みを紹介したが(http://www.qualitysaitama.com/?p=28846)、今回は2月15日、16日の大雪においてみられた具体的な事例を紹介したい。
これは長野県佐久市という群馬県との県境にある市での出来事であった。そもそも雪の多くないこの地域に80cmという大雪が降り、県道をはじめとする市内の道路が雪によって遮断されてしまった。普段からツイッターで情報発信している佐久市長には約3000人のフォロワーがいて、市民からツイッターで寄せられるガソリンスタンドの規制や道路の積雪状況などの大雪による影響について対応していた。その後、個別の対応でなく市長はツイッターで市民に対して情報提供を呼びかけた。市民からの提案により「#佐久道路」というハッシュタグ(特定テーマを認識する記号)も作られ、どこそこでトラックが立ち往生しているなどといった具体的な情報と写真が多く集められた。この情報を基に市長は佐久市の持つ除雪能力では対応できないと判断し、長野県知事に自衛隊の出動要請を行い、大雪3日目に自衛隊が出動することができた。
すでにニュースでも取り上げられているように、埼玉県秩父市は自衛隊派遣を県に求めたが断れている。これは一概に県が悪いわけではなく、自衛隊の災害派遣については、「公共性」「緊急性」「非代替性(自衛隊の派遣のほかに取り得る手段がない)」の3要件を満たしているかどうか考慮される。単なる除雪作業というだけでは派遣要請は認められず、人命救助にかかわるものであるという説明責任が要請する側に求められるのだ。その点で佐久市の場合、現状をもとに市の除雪対応力不足という事実を把握し、写真や問題個所といった説得力のあるデータとともに派遣要請を出したことが要請が認められたことにつながったのではないだろうか。
「ガバメント2.0」の提唱者、ティム・オライリーは、「政府がプラットフォーム化しなければならない」と述べている。この趣旨は、政府側が提供するサービスを市民に使用させるだけでなく、市民が参画しそこから新しいものを産み出せるようなオープン性を用意することだ。今回の佐久市の場合、市長のツイッターという舞台ではあったが、市民が参加したことにより素早い復旧が可能になった好事例である。ツイッターはあくまで手段であり、普段から情報のネットワークを作り上げていたことと、限界集落に対する課題意識がその背景にあることは間違いない。
新しいサービスや技術はあるきっかけによって浸透する例は多い。たとえば2008年の米大統領選挙でオバマが最大限活用したことにより、ソーシャルメディアがあっという間に浸透した。同様にこの出来事をきっかけに情報システムを通じた市民参加型の問題解決手法が世の中に浸透していくかもしれない。それに伴い、市長をはじめとする行政側も市民参画のプラットフォームを用意し、適切な情報開示や情報活用を行っていく必要がある。ツイッターを攻撃のツールとしてしか使っていないあの市長に耳に入れたいものだ。
(小林 司)
バックナンバー
新着ニュース
- エルメスの跡地はグッチ(2024年11月20日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR