トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 憲法記念日に憲法裁判所について考える
社会 …社説
5月3日は憲法記念日、67年前のこの日に日本国憲法が施行された。67年後の現在、集団的自衛権の行使容認に関する解釈変更が注目を集めている。
集団的自衛権とは「自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を、自国が直接されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と定義され、政府のこれまでの憲法解釈は「保有しているが行使できない」だった。しかし、尖閣諸島の問題や北朝鮮による核・ミサイル開発とわが国を取り巻く安全保障環境が悪化している中、日米安全保障体制をより機能させるべく安倍首相は憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を可能にしようとしている。具体的には憲法解釈変更を閣議決定し、その後、必要な法整備を行うことになる。
いままでの政府の憲法解釈を含め政府の統一見解を作成するのが内閣法制局である。内閣法制局を「法の番人」の扱いをして首相が政府の解釈を変更することを批判する大手新聞があるのだが、立法、司法、行政の三権分立の初歩がわかっていないと言わざるを得ない。内閣法制局はその名の通り行政権を担う内閣に属し、政府が国会に提出する法案を現行法体系の見地から問題がないかを審査する組織である。政府の見解に責任を持つのはあくまで首相であり、内閣法制局長官ではない。それでは時の政権の都合の良いように憲法解釈を行ってよいかと問われれば否である。法的安定性が求められる以上に、安易な解釈改憲を許すことは国民の人権を危うくする。
日本国憲法第81条では「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」とあり、わが国では法律等が合憲か違憲かを判断する違憲審査権を持っているのは司法権を担う裁判所になる。世界における違憲審査制度では大きく2つの制度があり、日本やアメリカのような「付随的違憲審査制」とドイツの代表される「憲法裁判制」である。前者は具体的な訴訟の中で、限定的に合憲か違憲かを通常の裁判所が判断する。後者は通常の裁判所とは別に憲法裁判所を設け、具体的な事案ではなく抽象的に法律や国家行為の違憲審査ができる。憲法裁判所については当然メリット、デメリットがあり、デメリットとしてはいたずらに法律や行政に対する違憲確認訴訟が起こされて、社会が停滞するということであろう。しかし、重要な問題について違憲、合憲の判断を司法がきちんとするという点は憲法裁判所のメリットだ。
かつて恵庭事件(えにわじけん)という北海道千歳郡恵庭町(現恵庭市)に住む酪農家の兄弟2人が自衛隊の電話通信線を切断した刑事事件があった。兄弟は自衛隊法第121条違反に問われ、自衛隊法が日本国憲法第9条に照らして合憲か違憲かが争点なった。しかし、一審の札幌地裁で電話通信線は自衛隊法第121条の「その他の防衛の用に供する物を損壊」に該当しないということで、兄弟は無罪になった。無罪になれば上告もできず、自衛隊法上で審査しなかったため違憲審査にもふれずに終わってしまった。であるから、現在に至っても自衛隊が合憲であるとの根拠は政府解釈なのである。だから政府による憲法解釈が実質的に大きな意味を持つ。つまり、憲法裁判所が無く通常裁判所が違憲審査に消極的な我が国では、抽象的な違憲審査を内閣の下にある独立した第三者機関でない内閣法制局が行っている。これは行政権の司法権への浸食であり、健全な権力監視体制ではない。これを解消するためには司法権によるチェックを強化する必要があるが、これをいま提言しているのが日本維新の会だ。
橋下代表は「日本国には、法の番人がいない」「日本の仕組みはこの責任のない助言者(内閣法制局長官のこと)に事実上の決定権を与える。そして責任を伴わない決定が繰り返される」と指摘し、「内閣の憲法解釈の是非を判断するのは憲法裁判所」だが、日本には存在せず「日本の統治機構、すなわち憲法保障の仕組みがゆがんでいる」と説いている。具体的には憲法裁判所を作るか、もしくは最高裁判所内に憲法部を作れと説いている。
現行憲法上、違憲審査制度をどこまで変更できるか検討する必要はあるが、この主張は統治機構改革の点からも傾聴に値する。
(小林 司)
バックナンバー
新着ニュース
- 島耕作、50年目の慶事が台無しに(2024年11月24日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR