トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ 女性に好かれる都市が生き残る-都市部も他人事でない「増田リスト」
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少子高齢化が社会問題となって久しい日本であるが、前岩手県知事で東大客員教授の増田寛也氏が座長を務める民間有識者による「日本創世会議」は、先月8日、自治体の将来推計人口に関する会見を開き、それが大変な波紋を呼んでいる。発表内容は全国1800自治体の2040年の将来推計人口で、約30年後の2040年に若年女性の人口が半減する896の市町村を「消滅可能性都市」とし、そのうちの523は消滅する可能性が高いというショッキングな内容だった。この詳細は中央公論6月号に「消滅する地方都市-523」という特集で、896市町村のリスト-いわゆる「増田リスト」ともに掲載されている。
増田氏は旧建設省出身で、小沢一郎にすすめられ1995年岩手県知事に初当選した。その後小沢一郎と決別し、改革派知事の代表格として知事を3期務めた。その後地方分権改革の旗手としての実績をかわれ、第一次安倍改造内閣では今の官房長官である菅氏の後任として総務相に就任している。現在は社会保障国民会議議員をはじめ、第2次安倍内閣の有識者会議や審議会の委員などを多数務めている。
もう少し詳しく説明すると、レポートでは出産年齢の中心である20~39歳の若年女性が2040年に2010年の半分以下に減る自治体を、人口減が止まらない「消滅可能性都市」と定義している。その理由は出産の95%が20~39歳の女性によるものなので、この若年女性人口が減少すると総人口の減少に歯止めがかからない関係にあるためである。そこで地方から東京圏への一極集通の人口移動が収束しないと仮定して試算した結果、896市町村がこの「消滅可能性都市」の定義に該当した。さらにこのうち2040年時点で人口が1万人を切る市町村は全市町村の3割にあたる523あった。人口が1万人を切るとその後一気に人口が減り行政体として機能の維持が困難になり、そのため現実に消滅する可能性が高いとみられている。ちなみにもし人口流出がなかったとしても現在の平均出生率1.41では30年後人口は7割になる計算で、人口を維持するためには出生率はただちに2.0程度になる必要があるそうだ。
今回の発表の特徴は「消滅可能都市」に該当する市町村名が公表されているところである。民間の立場からゆえできることで、政府の立場ではできなかったろう。しかし、安倍首相、菅官房長官と増田氏の関係から、政府側も承知の上で公表に踏み切ったのではないかと推測できる。ある雑誌では事前に増田氏が菅官房長官に公表への理解をもとめていたという記事もでていた。また発表の翌日には新藤総務相が「共同歩調をとっていきたい。思いは同じで役割分担をしたい」と発言し、連携を示唆している。それくらい、政府も自治体に対して危機感を共有したいということであろう。
青森、岩手、秋田、山形、島根の5県では8割以上の市町村がこの「増田リスト」に入っていた。特に秋田県は農業という産業基盤のある大潟村以外の全市町村が当てはまっていた。また、5割以上の市町村が該当するのは24道県にも上る。しかし、東京圏も安心してはいられない。人口減少そのものは地方からの人口流入によって約1割の減少にとどまるが、保育所整備のおくれなどで、出生率が1.09にさがっている。そのため超高齢化が進み、介護が成り立たなくなると予測される。現段階でも東京都には特別養護老人ホームに入所待ちしている『待機老人』が4万3千人もいるということで、さらに現在の湾岸エリアのマンション開発が30年後の超高齢化を加速する可能性もあるわけだ。
埼玉県に目を向けてみると、「増田リスト」に記載されている市町村は東秩父村、小川町をはじめ21市町村。県内の全市町村の3分の1にあたる。町村だけでなく、幸手市、行田市、北本市など6市もリストにはいっていたのは、確かに驚きである。しかしこのリストに入っていないということで安心するのでなく、自治体は人口減に対して今から本格的に取り組む必要があることは間違いない。
人口減対策としてまず出生率向上があげられるが、都市部においては待機児童対策にとどまらず大きな意味での保育環境の整備が重要であろう。女性が仕事をしながら子供を育てることできるためには、自治体のみならず、企業や地域コミュニティも加えた社会全体で取り組む課題だ。加えて若年層の流出をふせぐことが重要で、そのためには地元での雇用創出や産業育成がかかせない。特に埼玉県においては大学との連携が大きなテーマではないだろうか。海外に目を向けると、米国などでは産業と大学など高等教育機関との連携が密で、大学が新産業の創出やそこではたらく人材の供給元になっている。埼玉県内にも大学はあるものの、1・2年のキャンパスであるということも多い。さらに近年都心部にキャンパスを集約する傾向にあり、最近では久喜市の東京理科大学が完全撤退とのニュースも流れた。埼玉県にとっては逆境であるが、キャンパス用地となる広い土地が準備できると前向きにとらえ海外大学の誘致や4年間使用のキャンパスに再利用してもらうことに挑戦していけばよいのではないか。そして卒業した若者、特に若年女子を地元にとどめる、都内に流出させないようにな街づくりにとりくんでいくべきだ。たとえば大宮駅などもJR系のショッピングビル「ルミネ」はおしゃれなお店が増えているが、東口西口ともにまだまだ女性が楽しく時間を過ごす街並みまでにはなっていないのではないか。政策というとお堅いイメージがあるが、これからの都市政策は女性の気持ちがわかるマーケティング思考がもとめられているのである。
(小林 司)
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