トップページ ≫ 社会 ≫ 社説 ≫ あなたの年金はだれが運用しているか知っていますか?GPIFの改革に注目しよう
社会 …社説
8月の株式市場は夏枯れ相場とも言われる。事実ウクライナ情勢などの地政学リスクも懸念され、今月に入ってから日経平均やダウ平均など日米欧で下げ相場の様相を呈している。その中で注目を集めているのは「年金積立金管理運用独立行政法人(以下GPIF)」の運用改革だ。GPIFとは公的年金(厚生年金および国民年金)の積立金の管理と運用を行う独立行政法人である。GPIFの運用資産は約130兆円という大きな額で世界でも最大規模の機関投資家になる。いままではその運用資産である年金を目減りさせないために主に債券で運用していたが、この秋に発表する新しい資産構成では株式の運用比率を高める方針であり、それに伴い株式市場への資金流入・相場活性が期待されている。
一方、GPIFが株式での運用比率を高めることに対し、世間では消極派と積極派にわかれている。消極派の意見は株式のようなリスクのあるものに、国民の大事な資産を投資してよいのかというものであろう。改めて言うまでもないが、GPIFの使命は「われわれ国民の年金を資産運用によって殖やす」ということだ。GPIFのいままでの平均運用利回りは2.07%であり、この数値には直近2年間の株高の影響が含まれており、それがなければ0.67%であった。債券の代表的なものは国が発行する国債で、株式に比べると確かに元本の保証や利子の支払いなどは安定している。株式投資は株価が下がったとき多額の損失が一時的に発生する。しかし、海外の公的年金での10年程度の運用実績をみると、債券よりも高い利回りをあげているケースが多い。資産を株式、債券、不動産など運用先を分散させる考えをポートフォリオという。西洋の格言では「卵は一つのカゴに盛るな」とあり、卵を複数のカゴに分けておけば、一つのカゴを落としてその中の卵が割れても、他のカゴの卵が割れることはない。分散投資の大事さを表している。値動きは激しいが利回りが高いものと利回りは低いが元本が保証されているもの、これらを組み合わせて長期的に資産を殖やしていくことがポートフォリオのポイントだ。「イギリス人はどんなことにも我慢できるが、2%以下の金利には我慢できない」ということわざを知っているだろうか。現在の歴史的低金利のなかで、適切なポートフォリオを組んできちんとした運用利回りを出せないのであれば、GPIFの存在意義はない。この運用利回りはGPIFのホームページで確認できるので、きちんと国民が目を光らせなくてはいけないと考える。
それではどういったポートフォリオがよいか。全米で第一位の規模を誇る公的年金基金の「カリフォルニア州職員退職年金基金(以下カルパース)」はその巨額な資金と積極的な運用姿勢で世界的に知られた機関投資家であり、平均の利回りも民間や他の公的年金を上回っている。このカルパースの運用資産が30兆円であるから、GPIFの130兆円がいかに巨大なものか理解できるであろう。カルパースは64%を株式で運用しており、株式や債券などの既存の投資以外のヘッジファンド、不動産投資信託や金融派生商品(デリバティブ)に19%投資している。債券の比率は17%に過ぎない。また、国内でも企業年金に目を向けると、トヨタ自動車は57%、日本水産は54%、第一三共が41%を株式に配分し、それぞれ16%~29%の高利回りを実現している。現在のGPIFの基本ポートフォリオは債券(主に国内)71%、株式24%、短期資産5%になっている。筆者なりにリーマンショック後の各種投資商品の利回りを考慮すると、株式(国内と外国)50%、債券(国内と外国)30%、その他投資20%くらいの基本ポートフォリオを組んでしかるべきではと考える。
積極派の中には「アベノミクス第3の矢」の推進力としてGPIFの運用資産を成長分野へ投資し、同時に利回り向上に役立てようという考えや、GPIFの資産130兆円で日本株式を買い株主として日本の企業統治をかえろという経営者もいる。このように副次的効果に言及する人たちが消極派の懸念である政治の介入や結果責任の不在を思い起こさせるのだ。国民の資産が目先の株価対策や政策的な財布になり、損失のつけを国民が払わされるということがあってはならない。過去、グリーンピアの事業失敗で公的年金が無駄遣いされたことを忘れてはいけない。この失敗からうまれたのがGPIFでもある。だからこそ、この秋のGPIF改革にあたりガバナンス改革がとても重要なのである。
GPIFが真に国民の将来の生活の糧である公的年金を殖やせる体制になるためには、第一にきちんとした金融のプロをいれること、そして第二に責任と権限を明確にすることが行わなければならない。年金の運用は実際には資産運用会社と信託銀行によって行われるが、最適なポートフォリオの判断や投資商品の選別も含めた運用方針を決めるのはGPIFになる。現在運用方針つくりに関わっている運用委員会は理事長の諮問機関という位置づけで、運用委員は厚生労働相が任命し、主に学識経験者から成り立っている。運用方針決定には国内に限らず経験の積んだプロを採用する必要があり、プロがきちんと責任を取る形にしなければならない。また任命についても独立性を担保された理事会が任命する形にして、担当大臣をはじめ政治の介入を防ぎ「国民の年金を運用で殖やす」という使命に専念できる体制をつくることが肝心だ。
自民党の塩崎政調会長代理が先週都内の講演で、GPIFのガバナンスを見直す改正法をこの秋の臨時国会に提出すべきと述べた。GPIFについては株価への影響という視点でニュースにとりあげられることが多いが、繰り返しになるが本質的には運用によって年金を殖やすことができるかどうかが重要である。より多くの国民にこのGPIFに関心をもってもらうことが大切である。
(小林 司)
バックナンバー
新着ニュース
- エルメスの跡地はグッチ(2024年11月20日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 秋刀魚苦いかしょっぱいか(2024年11月08日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR