トップページ ≫ 社会 ≫ 資本主義の病を描出した世界的ベストセラー
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1冊5940円(税込み)で700ページ超の経済書が飛ぶように売れている。12月に刊行されたフランスの経済学者トーマ・ピケティの「21世紀の資本」の日本語版(みすず書房)だ。海外で100万部を突破し、日本でも1月中に13万部達成の見込みと言われている。
ピケティは世界各国の共同研究者とともに、欧米や日本などの先進国と主要途上国の長い年月に渡る統計を集め、各国民の所得と資産を納税記録をもとに調べ上げ、最上位所得層への集中の実態を明らかにした。2つの大戦を経て縮小された所得格差が1970年代以降、再び広がり始め、米国では上位1%の人々により所得の20%、資産の30%が占められるまでになった。経済成長率が低くなるに従い、その傾向が強まり、相続による世襲型資本主義が形成されるという。
それを制御するには、資産に対する強い累進課税とあわせて高額所得や相続に対しても課税の累進性強化が必要だとしている。このようなピケティの主張は、1980年代から米国や英国で台頭し、現在の日本の政財界に強い影響力を持つ新自由主義と真っ向から対立する。
資本主義社会の問題点を鋭く摘出していることから、カール・マルクスの「資本論」を連想する人も多いようだが、ピケティはマルクス主義者ではない。資本主義体制の中で、収税方法を変えることで格差を縮小し、財政赤字を解消して福祉重視の国家をめざす。この本が世界的ベストセラーになっているのは、どの国も格差拡大という資本主義の病を抱え、それを危惧する人が多いからだろう。
ただ、読みたくても定価が高過ぎて、購入をためらう人は相当数いるはずだ。図書館で借りようと思っても、所蔵数が少ない。たとえば、さいたま市立図書館は市内各所に20館以上あるが、所蔵数は全体で2冊きりで、借り出し予約は400人を超えている。
そんな状態を見越したのか、1000円前後の解説本が急遽、刊行されている。「日本人のためのピケティ入門」(池田信夫・著 東洋経済新報社)や「ピケティ入門『21世紀の資本』の読み方」(竹信三恵子・著 金曜日)だ。前者は新聞広告で「発売即3万部!」と謳っている。80ページしかないが、864円(税込み)という価格が魅力のようだ。
週刊誌でも紹介記事が続々掲載されているし、NHKのEテレでは1月9日から6回に渡って金曜の夜にピケティの講義を放送する。そして1月29日にはピケティ本人が来日し、シンポジウム、討論会、東京大学での有料講義をこなす。
今や社会現象化したピケティ・ブームだが、経済書がこれほど話題になったのは筆者の記憶では、今は亡き宮崎義一が1992年に著した「複合不況」(中公新書)以来と思える。この本はバブル崩壊して不況に陥った日本経済について豊富な統計を駆使して解析した好著で、書名の複合不況はこの年の新語・流行語大賞の金賞を受賞した。
格差是正に関するピケティの主張は示唆に富む。折しも米国のオバマ大統領は、一般教書演説で富裕層や大手金融機関への大幅増税案を表明する意向だと伝えられている。しかし、上下両院で多数を占める共和党の反発は必至だという。
ところで日本だが、ピケティの考えとは縁遠い。アベノミクスではトリクルダウン理論を重視しているが、これは富裕層がさらに富裕になると、低所得層にも恩恵が回ってくるというもので、いわば「おこぼれ」を期待する政策なのだから。 (文中敬称略)
(山田 洋)
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