社会
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先日、浦和で行われた講演会は、主催が護憲団体「九条の会・さいたま」、講師が新右翼「一水会」元代表(現在は顧問)の鈴木邦男氏で、その組み合わせに引かれて出かけてみた。鈴木氏とは専攻学科が違うものの、大学で同じ学部の同学年で、1963年の入学直後に、たまたまある会で同席したことがある。仙台のキリスト教系の高校出身だが、新興宗教のほうに興味があり、宗教団体の生長の家とも関係があると話していた。
その後、何回か学内で見かけたが、やがて姿を見ることはなくなった。当時から本格的に右翼活動に加わっていたとは知る由もなかった。だから卒業後20年ほどして新右翼の理論家としてマスコミに登場した時は驚いた。
浦和の講演会は、目下の最大テーマ、集団的自衛権に触れた後、愛国心についての話を中心に展開した。講師本人もかつては「日本一の愛国者だ」と自任していたそうだが、当時それを言うと、「右翼」の一言で否定されたという。しかし、ある時期から人々の意識が変わり、にわか右翼、新保守が急増した。文部科学省や自治体も日の丸・君が代を強制するようになり、声高に愛国心が語られるようになった。
こうなると鈴木氏でさえ戸惑ってしまい、あげくはにわか右翼から「裏切り者」「売国奴」と罵られる始末だ。自己の反省を踏まえて「愛国心は国民一人一人が心の中に持っていればいい。口に出したら嘘になる。他人を批判する時の道具になるし、凶器になりやすい」と述懐する。彼に大きな影響を与えた三島由紀夫も、市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺する2年前、朝日新聞に「愛国心――官製のいやなことば」と題して「背中のゾッとするやうな感じをおぼえる」と書いているのだ。
今の鈴木氏は、愛国心についてのみならず政治的スタンスも、愛国運動に没頭していた頃とは変化が見られるのは確かだ。本人はその理由として、長い間の運動を通して右翼も敵方たる左翼も十分知ったことと、読書の力をあげている。20代の頃の読書は政治活動や敵との戦いのための武器だった。だから敵側の書物も読んだ。そうすることで敵の論理や心情も自分の中に入り込み、知らず知らずのうちに蓄積されていったと自己分析している。
特に力を入れたのは日本と世界の思想関係の全集を読みまくること。こうした読書によって、右翼・左翼といった枠を超えることができたと『鈴木邦男の読書術』(彩流社 2010年刊)で打ち明けている。読書の範囲は思想や政治にとどまらず、歴史、宗教、大衆小説を含めた文学、児童書、格闘技本等々、手当たり次第といった感じだ。3月に刊行された『慨世の遠吠え――強い国になりたい症候群』(鹿砦社)の中で対談相手の哲学者、内田樹氏が「本当にいろんなものを読んでいますね」と舌を巻いているほどだ。
講演会の後、駅前の居酒屋で講師を囲む二次会が開かれた。私は彼のユニークな読書論の感想を述べたが、盛り上がったのは二人の母校と縁が深い『人生劇場』(尾崎士郎)が話題になった時だった。
(山田 洋)
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