トップページ ≫ 社会 ≫ 八ッ場ダム問題 最優先すべきは住民の生活再建半世紀以上にわたって国家に翻弄され続けてきた地域住民
社会
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民主党が衆院選の公約に掲げた八ッ場ダムの建設中止をめぐって、世論が揺れている。国土交通省はすでに本体工事の入札を延期し、新たな国交相の指示を待つ状態である。八ッ場ダム建設に関しては、続行よりも中止の方が経費増との意見もある。地元負担金を支出した都県が、中止で国に返還を求めようとの動きも見え始めた。
上田清司知事も1日の記者会見で「八ッ場ダムの中止について民主党は、1兆3,000億の中に入れておりますが、基本的には、中止した方が事業費がかかるというフレームになっております。総額4,600億円の事業でありますが、現在までに3,210億円使って70%の事業を終了しております。平成21年度以降で1,390億円を使うことになっておりますが、一般的にはこの部分が無駄だということで、廃止・中止すればこの部分が浮くんではなかろうかと思われるんでしょうが、実は生活再建関連の事業費は、これは地元との約束ですので、外すわけにはいかない」(埼玉県webサイトより)と述べている。
計画からすでに半世紀・・・
「無駄」「不必要」という報道の影に隠れ見えづらい。しかし、八ッ場ダム問題で最も重視されるべきは、上田知事も一言言及されているが、すでに50年以上の長きにわたりダム問題で翻弄されてきた地元住民の生活再建である。
計画が持ち上がった1952年以来、すでに57年が経過した。激しい反対闘争を経た上で、いま地域住民の多くが、一刻も早いダムの完成こそが望まれると考えるに至った経緯、事実は非常に重い。
1986年の群馬県議会で、八ッ場ダムに関する基本計画が可決されたことで事実上、ダムの建設が決まった。既に10年以上前から、ダム建設に関わる道路や代替地造成、各種施設といった付替工事が始まっている。2005年9月には、代替地分譲基準の調印式が行われ、生活再建事業も本格化した。あとは、本体工事に着手するのみというのが、大まかな現状である。
この間、長引く交渉と先行きの見えない将来への不安などから、多くの住民が八ッ場エリアから、去っていった。当初見込みよりも、代替地に移転する予定の住民も減っていった。新たな地で新たなまちづくりがうまくいくか。スピードこそが第一に優先されるべきと考える理由もそこにある。
民意も無視できない
一方、八ッ場ダムの建設が計画された昭和20年代はカスリーン台風をはじめ大型台風による水害が頻発した。そんな中での計画だった。もちろん、他のダム同様、洪水調節や都市用水の供給を主な目的とする。この部分で八ッ場ダムの重要性をどう考えるかが、ポイントとなるのだろう。
マニフェストに建設中止を掲げて闘った民主党圧勝の結果から考えるに、民意を無視することはできない。国民の多くは、国交省が訴える八ッ場ダムの重要性、治水効果、利水効果をもはや信じてはいないということなのだろう。続行か中止か。結論を出すには、さまざまなシミュレーションが必要となるのはいうまでもないが、ダム本体の建設が中断される間にも生活再建事業は急速に進めなければならない。
ところで、八ッ場エリアには水没する地域が5地区存在する。そのそれぞれに代替地が造成される。既に分譲に関する基準も決まり、実際に造成・分譲が行われ、住宅の建設が始まっている地区もある。とりわけ、最も早く分譲が始まった長野原地区では、すでに完成した家々もあり、新しい生活がスタートした。各地区では、移転後の新たなまちづくり計画などを、綿密に繰り返している。
一方、“ダムに沈む温泉”として知られる川原湯温泉地区。吾妻渓谷沿いの風光明媚な温泉街は、ダムの計画が持ち上がったころ、観光客・湯治客で賑わい最盛期を迎えていたという。ところが、反対闘争が長引く中で住民の多くは疲れ、観光客も減少。先行きが不透明だから設備投資もできない。廃業も相次ぎ、温泉街を出て行く者も増えた。新たな温泉街は現在の温泉街よりも上部に造成され、すでに新たな源泉も掘削されている。
反対闘争、紆余曲折、長引く補償交渉・・・。地域の住民たちが、ごく普通の日常生活を取り戻すためには、一刻も早い工事の完成しかないと考えるにはそんな背景がある。
「友愛」というなら、まずは住民の生活再建を
ここで建設中止となれば、代替地に移動するよりも現在地でそのまま住み続けたいと考える住民も相当数でてくるはずだ。そうなれば、既に代替地に移転あるいは住宅工事が始まった住民も少なくはないことから、新旧のまちは歯抜けのようにボロボロとなる。半世紀もの間、分断され続けてきた地域にとってあまりにも過酷な結末ではないか。
そもそも筆者自身も本音を言えば、八ッ場ダムについては、計画当初と状況も変わった今、その必要性については深く疑問を抱いている。しかし、代替地の造成、住宅建設まで進んだ状態での建設中止は、計り知れない危険性を孕むとも考える。とにかく遅すぎたのだ!ダムの必要不必要論争以前の問題として、まず、この部分を検討すべきだ。生半可なエコ的視点から、今さらダム反対を叫ぶのも論外だ。続行でも中止でも“にわか八ッ場ダム論者”には、ご退場願いたい。
なぜ、もっと早い段階で、八ッ場ダム問題を政治家やマスメディアは大きく取り上げてこなかったのか。建設を決め進めたのも、建設中止するのも、政権は違えど、同じ国家だということを忘れてはならない。半世紀以上にわたり翻弄されてきた地域住民の生活再建に対する責務は、重い。
まずは、建設を中止にした場合の生活再建シミュレーションを何よりも最優先して行い、住民に提示すべきだ。地域の住民が納得でき、不安を解消できるようなビジョンを提示できるか。ここで、同意を取り付けられないにもかかわらず中止するとすれば、日本という国は、ダム建設&中止をめぐって、結局は地域の住民の生活を見捨てたということになる。
あえて極論するが、八ッ場ダム問題は、もはや環境問題でも財政問題でも治水&利水問題でもない。国が住民の生活をどう考えるかという問題である。もちろん、1億3千万人すべての住民に都合の良い政策などないが、半世紀以上にわたって翻弄されてきた住民の生活は、少なくとも最優先されていい。
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