社会
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ここ数日、尖閣諸島海域での中国漁船の日本巡視船への体当たり、測量船への測量中止要求、中国政府の各種レベルでの高圧的な釈放要求取分け休日深夜に日本大使を呼びつけたことほど日本国民を憤激させた事件は他に記憶にない。既に全国人民代表大会副委員長の訪日延期などが決まった。今後この事件がどう展開するのか予測できない。
中国が軍事的経済的に脆弱であった時代「中国は永遠に覇権を求めない」などと殊勝なことを言っていたし、日中平和友好条約でもそれを謳っている。中国は覚えていないようだから下に主要部分を引用する。
第一条
両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
第二条
両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。
この条約が締結された時、鄧小平は「この問題(尖閣諸島)の解決は将来の世代に委ねる」即当面日本が実効支配する現実を認める立場であった。
中国が大陸棚延伸論により自国領海と主張するのは勝手だが、日本が過去百年以上有効支配した現実を覆えそうとするのはならず者の所業だ。対日関係だけではない。ベトナム、フィリピンとの間でも類似の係争がある。大陸国家の中国がなぜ空母や潜水艦をほしがり海軍軍拡に邁進するのか不思議だったが、その意図はここにあったのだ。
2008年3月12日の産経ニュースから
中国海軍高官、太平洋の米中共同管理をアメリカ太平洋艦隊司令官に提案
米太平洋軍のキーティング司令官(海軍大将)は11日の上院軍事委員会公聴会で、昨年5月に司令官として初めて中国を訪れ中国海軍高官と会談した際、太平洋を分割し米国がハワイ以東を、中国が同以西の海域を管理してはどうかと中国側から“提案”されたことを明らかにした。司令官は「面白半分の冗談」と断りつつ、こうした“提案”は「中国人民解放軍が抱いているかもしれない戦略構想」の一端を示しているとも指摘。中国は「明らかに自国の影響力が及ぶ範囲を拡大したいと考えている」と証言した。
同司令官は「面白半分の冗談」と考えたようだが、その後の中国の振る舞いはこの提案が「冗談」ではなかったことを示している。
ところで今度の事件にもどると、あの船長はどうしてテレビカメラの前で顔を隠したのだろう。日本に知り合いはいないはずだし、中国では英雄扱いだ。顔を隠す必要があるとは思えない。或いは本当はあの男は船長などではなく中国政府の意を受けた特攻隊だったかもしれない。外交問題に関わる事件で一市民が勝手に行動するとは中国に関する限り考えられない。
顔を隠したのは中国側からそれがバレるのを恐れたからではないか。この男の祖母がショックで急死したというのもわざとらしい。
満州事変は日本関東軍が中国人の仕業と見せかけて自ら満鉄を爆破したことをきっかけに始まった(柳条湖事件)。今回は逆柳条湖事件かもしれない。満州事変のようなオオゴトになるかどうかまだわからない。
昨日のNHKニュースは、中国政府は世論の手前弱腰と見られたくないので強硬な態度に出ていると言っていたが、極(ごく)浅薄な見方だ。中国では世論を誘導するのは難しくない。中国ではニュースの取捨選択はすべて共産党が規制し、このニュースを報道するかどうか、どの程度扱うかも決める。ネットの書き込みだって削除又は拒絶するのは中国政府のお手の物だ(一説によると中国にはネット検閲官が30万人いるとか。グーグルが検閲に抗議して撤退したのは記憶に新しい)。だから世論に圧されているのではなく自ら世論を煽り、それを背景に日本に圧力をかけたいのだ。東支那海ガス田共同開発の合意を反故にするのもその目的の一つかもしれない。2005年官製反日デモで日本の国連常任理事国入りを阻止したように。あの時、正面切って常任理事国入り反対は言い難いので(中国はアジア唯一の常任理事国という立場を維持したいからと言われる)、過去の日本帝国主義の悪行を思い出させ常任理事国入り反対の国際世論を喚起しようとしたのだ。
多分中国がこの時期を撰んだのは、日本政府は民主党代表選挙で取り込み中であること、普天間を巡り日米関係がギクシャクしアメリカが日本の肩をもつことはない見極めたこと、ODAも既に終り日本を怒らせても失うものはない等の判断によるのだろう。
本稿執筆時点で民主党代表選挙の帰趨はわからない。仮に小沢内閣が成立するとしても外務大臣に鳩山由紀夫さんを起用するのだけはやめてほしい。「友愛」の鳩山さんではすぐ謝り譲歩するだろう。鳩山さん、まだ「東アジア共同体」を売り歩くつもりですか?
なぐられたら殴り返すか少なくとも面罵するのが一般的な反応だが、日本は奇特な国で相手はどうしてああいう行為に出たのだろうと、怒りよりも相手への慮りが先行する。日本政府は世界でキリストの教えに最も忠実かもしれない。
悪しきものに手向かうな。人もし汝の右頬をうたば、左をも向けよ。汝を訴えて下衣を取らんとするのものは上衣をも取らせよ。人もし汝に一里行くことを強ひなば共に二里行け(マタイ傅福音書「第五章三八節」)。
これを日本語では「大人の対応」と言うらしい。私の辞書に「大人の対応」はない。「弱腰」、「ことなかれ主義」ならある。
(ジャーナリスト 青木 亮)
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