トップページ ≫ 教育クリエイター 秋田洋和論集 ≫ 公立高校の「私立大学合格力」を検証する(埼玉版)
教育クリエイター 秋田洋和論集
各高校のホームページをチェックすると、「平成21年度大学入試実績」の確定版を公表しているところが増えてきました(中にはまだ平成20年度の実績のままのところもありますが)。進路指導部がしっかり機能している学校であれば「3月から速報→4月に確定版」を公表する流れが一般的ですから、中3生のお子様をお持ちの保護者の皆様は、「各高校の受験に対する意識」を今のうちに確認しておくことをお勧めします。
さて今回は、埼玉の主な公立高校の「私立大学合格実績」とその数字の見方について紹介していきます。国公立大学の数値と違って、私立大学の合格実績は必ずしも高校の実力を正確に測るものではありませんので気をつけてください。
すべての私立大学について検証することはできませんので、関東の主要私立大学「早・慶・上智」「MARCH(明治・青山・立教・中央・法政)」「日東駒専(日本・東洋・駒沢・専修)」に絞って数字を拾っていくことにします。また、埼玉で高校受験をする中学3年生の大多数が受験する「北辰テスト」を実施している北辰図書のデータに基づいて、高校ごとの「合格者平均偏差値」も併記しましたので、同じような偏差値の高校を見比べることで、高校選びの目安にもできるのではないでしょうか。
平成21年度:埼玉県公立高校別関東主要私立大学合格者数一覧
注1:合格者数は現浪込み、手元資料と高校HPにて5月7日判明分まで集計
注2:高校の偏差値はすべて普通科(理数科の偏差値は一般的に普通科より高い)
注3:合格者数が空欄であっても「合格者0」とは限りません
注4:北辰偏差値は平成20年度(平成21年度受験生)向けに公表された数値
私立大学の合格者数は「延べ人数」であることに注意!
私立大学受験では、国公立大学入試とは違って入試日程が分散していることや入試システムの多様化によって、1人の生徒が多くの大学を受験することができます。関東・関西と受験行脚をすれば10校以上受けることも難しいことではありません。各高校が公表する大学合格実績も、もしも1人で10校に合格すれば塾や予備校と同じように、「A大1名、B大1名、C大1名、・・・」とカウントされています。大学別の進学者数(合格者数とは違います)まで公表している良心的な高校もありますが、これはまれなケースです。
一昨年、複数の私立高校が生徒の受験費用を負担して大学合格実績を「水増し」していた問題が話題になったことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。報道された高校(関西です)の中には、受験料を学校が負担した上で1人がなんと73学部・学科に合格したところがあるのです。また別の高校(これも関西です)では、成績が優秀な7人の生徒に関西の有名私大など6大学の計223学部・学科を受験させ、うち186学部・学科に合格していたことがわかりました。特に「関関同立」とよばれる関西の4私大の合格者は、高校が発表している延べ218人のうち、実績の約8割がこの7人によるものだったことが明らかになったのです。
公立高校であればこのような合格実績の「水増し」を行うことは考えにくいのですが、埼玉の場合には東京の私立大学を受験しやすい環境にありますから、特に高校側から指導を行わなくても、1人で5~6回の受験を行うことは特殊な例ではありません。1人の優秀生が5~6人分の合格実績を稼いでいる可能性は充分にありますので、数字の見方には注意が必要です。
私立大学の受験システムとは?
ところで、どうやれば1人で73学部・学科も合格することができるのか気になりませんか?そのシステムも紹介しておきましょう。その背景には「大学入試センター試験」が存在するのです。
かつての共通一次試験は国公立大学を受験する生徒のみが受験するものでしたが、現在のセンター試験は私立大学の多くも利用するようになっています(98年180大学→08年466大学)。一部の私立大学はセンター試験の得点だけで受験でき合否が判定される入試制度を設けているため、受験生は実際に大学に足を運ぶことなく合格通知をもらうことができるのです。つまり、センター試験を1回受けておけば、受験料さえ払えばこうした私立大学であればいくつも出願することができるのです。この制度は受験生にとっては大学選択の幅が広がり、大学側にとっては受験料収入アップにつながるためどちらにもメリットがあり、簡単に言えば「うまくできている」ものなのです。
高校ごとの特徴を理解しておく
今回紹介している合格実績には浪人の人数も含んでいます。たとえば浦和高校では「早稲田大学合格者128人中38人が現役」「慶應大学合格者79名中17名中が現役」など公表しています。この数字だけを見ると「現役で合格するのは難しい」という印象を持ってしまいがちですが、私立大学の合格実績の場合には国公立大学の実績の見方とは違っており、必ずしもこの印象が正しい場合ばかりではないことも意識しておくことが必要です。例えば浦和高校の場合、実際の進学者数を見ると「早稲田大38名(現役11名)」「慶應大31名(現役12名)」となっています。合格者数と入学者数の乖離(かいり)を見る限り「浦和高校の生徒たちは、現役ではそもそもあまり早慶を受験していないのではないか、浪人して初めて早慶を意識するのではないか」という推測も成り立つのです。ただし、あくまでもこれは推測ですから、特に受験生の保護者の皆様はご自身で検証してください。学校説明会に出向いて個別に質問をぶつけてみればすむことなのです。
また、高校が方針をもって合格実績の伸長に力を注いでいる途中には、一時的に合格実績が下がる場合もあります。例えば「MARCH」の実績を安定して出せるようになった高校が、今後早慶上智の合格実績を伸ばそうとする場合には、受験指導はもちろん普段の授業においても「早慶上智を目指す雰囲気作り」を行いますから、一時的に「MARCHの受験者は減、早慶上智はなかなか厳しくて合格者数が伸びない→結果として実績が減る」現象が起こることは珍しくないのです。こういった情報もなかなか伝わってきませんので、できれば実際に学校説明会に足を運んで、ご自身で確認することをお勧めします。
(秋田洋和)
~秋田洋和~
清和大学法学研究所客員研究員。
私立中学や学習塾への教育コンサルタントとしても活躍。
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