トップページ ≫ 教育クリエイター 秋田洋和論集 ≫ 品格ある子どもの育て方第一章 「品格のある子ども」ってどんな子?(11)
教育クリエイター 秋田洋和論集
自分で考え行動する子どもをどう育てるか
~最初に到達点を示して課題を消化させる~
普通、プロ野球のキャンプでの練習は、徐々に段階を上げて練習のレベルを上げていくものだと聞きます。最初のクールは基本的な守備練習。次のクールで内野連係、その後に投内連係、実戦の想定となっていくでしょう。
私が指導する数学で例えるのであれば、計算の確認、単元別の確認、そして入試問題といった具合に、除々に扱う問題のレベルを上げていくというイメージでしょう。
ところがこの年の西武は、こうした常識を取り払い、いきなり実戦を想定した守備練習を行ったのでした。少々専門的になりますが、「三塁と本塁の間で走者をはさむ」なんてレベルではなく、年に1回あるかないかのプレーまで練習させたというのです。
数学で言えば、まさに「いきなり入試問題に挑戦」というところでしょう。当然選手からは「こんな練習何のためにやるんだ、必要ない」という声が練習中にあがったというのですが、そういった反論は一切無視したそうです。
当然最初は、何をやってもボロボロだったはずなのですが(それがシーズン中であってもできなかったのが当時の西武)、広岡監督はその結果で選手を叱責するのではなく、そのプレーからひとつひとつ問題点を指摘して、日々の練習で改善すべき問題点を明確に示したのです。つまり、最初に到達点を示してから、
・このレベルに到達するために足りないこと
・日々意識しなければならないこと
を各選手に考えさせたわけです。その中でひとつひとつ課題を消化していくことを求めたのでした。先に到達点を見ているので、
・自分が何をやっているのか、練習の意味が何なのかが理解できる
・だから定着度は明らかに違ったものになる
のでした。この考え方は、当時高校生で、野球ではまったくの素人(しろうと)である私自身にとつても非常に説得力のあるものでした。この記事を「週刊ベースボール」(ベースボール・マガジン社)で読んだときには、これは今までとは違うぞと思ったことを覚えています。
現在、自分が中学生に数学を教えていて、子供たちへの接し方のスタンスは当時の広岡監督を今でもお手本にしています。生徒を大人として扱うことを意識した場合、最初にやることは、自分で考えさせることに他ならないと思うからです。
一般に、熱心な教師と言われる人は「伴走型」が多いようです。登山で言えば一緒に横について登り、「さあ、あと500m」といった形で、そのつど目標を提示しながら除々に頂上を目指すといったところでしょう。
これだと確かに指導者の側に、達成感は残るでしょう。しかし終始この形では、子どもたちが自分自身で考えることはなくなってしまいます。
登山を例にとれば、自分が今どの位置にいるのか、最終的な到達点はどこなのか、ペース配分など気をつけることは何なのかといったことは、ベテランであれば自分自身で意識するべきことであり、経験してはじめてわかることです。
こうしたことを先に教えられてしまうことは、たとえ悪気ないアドバイスの形であっても、結果的にその子どもの成長を阻害してしまう要因ではないでしょうか。
子どもにはじめて携帯電話を持たせる場面を想像してください。子どもに持たせるにはさまざまなリスクがともなうことも事実です。でも多くの人が、最低限の保護(アクセスブロックなど)をかけた上で、「とりあえずやってごらん」と、いろいろ経験させてみるのではないでしょうか。
操作をする前に「この場合にはこう対処しなさい」と1から100まで指示し、そのマニュアル通りに動くことを要求はしないと思います。ところがそれが勉強になると、とたんに要求する大人が多くなるから困るのです。
「品格ある子どもの育て方(PHP文庫) 秋田洋和著」より
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